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首輪はもういらない 2
「千草が前に言ってた、スオウの恋人に望む条件ってなんだったっけ」
「……本人が幸せで、本人の選んだ人、本人を考えて幸せにしてくれる人なら」
「それってさ、俺からしたら目の前の人なんだけど。ダメなの? それじゃあ」
「僕は、違うでしょ」
「自己肯定感が低いなぁ君は。そういうことになったってことはさ、告白されたんじゃないの? その言葉を信じればいいのに。正直になりなよ、自分の気持ちにも」
はっきりとした言葉と物理的にも背中を押してくれる柳くんはとても頼もしい。励ましなのか叱咤なのかばしばし背中を叩かれ、むせながら緩く笑う。
告白はしてもらった。誰か別の人に向けてじゃないかってくらい情熱的なのを。
でもそれは、なんというか……現実的じゃないというか、向いてないというか。
「面倒くさい奴だって自分でも思うけど、最終的に巻き込んじゃった感が強くて。こんなにはっきりしない気持ちでいること自体間違ってるんじゃないかって思っちゃうんだよね」
「あれだね。千草は夢を見すぎてるんじゃないかな。恋愛って誰しもがそんな情熱的な情動だけでしてないと思うよ」
妙に達観している柳くんに過去一体なにがあったのか。そういえばその関係の話をしたことがない。
僕が恋愛話に興味がなかったっていうのもあるけれど、柳くんの話に関しては興味がある。なんて言ったらチョップを食らいそうな気がするから今は言わないけど。
「うーん、しょうがないな。ぐだぐだ言う千草に魔法の言葉を授けてあげよう」
「魔法の言葉……?」
このままじゃ埒があかないと思ったのか、柳くんは腕を組みなにかの師匠みたいにどっしりと構えた。黒縁メガネも相まって一格言ある教授のような雰囲気だ。
「『番になっちゃったんだから仕方ない』」
そんな雰囲気のままずばり言われた一言は、とても簡潔。
唾を飲み込み身を乗り出して聞いていた僕は、危うくコントみたいにずっこけるところだった。柳くんが真面目な顔してるからまた反応しづらいところがある。
「そ、そんな身もふたもない……」
「それぐらい考えても無駄な事実。だから考えるべきことは過去じゃなくこれから。するべきことは悩むことじゃなく決断」
でしょ、と言い切って今度は肩を叩かれる。
僕が優柔不断だからこそ、柳くんのその断言はありがたく、味わい深く咀嚼して飲み込んだ。
起きてしまったことは起きてしまったこと。
跡はしっかりついているし、消すことはできない。それならばそれを飲み込んでから前に進むしかない。
当たり前のこととはいえ、人に言い切られてやっとその考えを受け入れることができた。
友達ってありがたい。
「ねえ、柳くんって、なんでそんなに優しいの?」
「なんでって友達だから……?」
自分でもどうかと思うぐだぐだ具合に付き合ってくれる柳くんがどうしてこんなに優しいのか、もしかしたら一番の謎なのかも。
その思いをまっすぐにぶつけたら、さっきまでなんでも気持ちよく答えてくれていた柳くんが戸惑うように首を傾げてみせた。
単純だけど嬉しい言葉をくれた後、より首を傾げる角度を大きくして考え込む柳くん。
「あとこの前お土産でくれたマンタせんべい美味しかったし。万で千ってなんか縁起いいなって思って嬉しかったし」
「すごい即物的な理由だった。また買ってくるね。あとその独特な感性好きだよ」
ダジャレなのかどうなのか微妙な判定の喜び方だけど、喜んでくれたなら良しとしよう。
イルカ饅頭よりマンタせんべいを選んでよかった。
「あと俺他に友達いないし」
「ア……あんまりそれ聞きたくないって言うか僕もそうだけど」
「俺の性格的にわりと思ったことすぐ言っちゃうから、普通にそれ受け止めてくれる千草もだいぶ変わってるし、それを聞いて優しいって思う千草が優しいんだと思う」
「柳くん……」
「ていうか千草がほっとけなさすぎなんだよね。最初はオメガって言うのではかないイメージで心配してたけど、今はまったく逆の意味で心配しかない。猪突猛進バカで怖すぎ」
「え、悪口……?」
「いや本当に。あと鈍すぎでほんと怖い。潤だけじゃなく、他のアルファにも狙われてんの気づいてないでしょう、君?」
今度またなにか買ってこようとほっこりしたし、なんならきゅんともしたのに、一転して真正面から歯に布着せない指摘をされた。悪口ではなく、真剣な顔で忠告されるものだから反応に困る。
なんか今すごくいいシーンの気がしたんだけど、気のせいだったかもしれない。
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