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首輪はもういらない 3

「潤のあれは、ただの意地悪でしょ」 「素直になれない小学生的なね。大体どこにあんないいカメラで嫌いな相手撮る奴がいるんだっての」 「それは柳くんの考えすぎじゃないかなぁ」 「ほら、俺が牽制してんのも気づいてないでしょ? まあ中身知らなきゃ凛とした美人だからね、千草って。しかもメグスクの話してればいつでも楽しそうだし。ちょっかい出して来てんのは今んとこ潤だけだけど、それにも気づかずメグスクの話ばっかで、怖すぎてそりゃ世話も焼くよ。気を付けないと危ないよ、ホント。いくらあんなんでもアルファはアルファなんだから」  腰に手を当てむかむかと怒ってる柳くんの怒りの対象は一体誰なのか。僕なら反省しよう。ただ、普通のアルファだったら僕になんか興味持たないと思うけど、よっぽど特殊な趣味の人がいるのか。  そう考えればあかりさんもだいぶ特殊なのかもしれない。 「まあさ、番ができたってことはヒートはなんとかなるってことなんでしょ? で、今こうやって普通に話せてるってことはさ、授業も出れるってことでしょ。それっていいことじゃない?」 「それはそう、だね」  これでヒートのたびに授業を休んで柳くんに迷惑をかけることはなくなる。その点は本当に良かったと思う。それは僕が番を作ろうと思った目的の一つだったから。  ただでさえ迷惑かけっぱなしの柳くんに、これで頼ることが少し少なくなるといいんだけど……僕のことだから自信がない。 「でさ、ここから千草のスマホが見えるんだけど、音切ってる? さっきから何回も『あかりさん』って人から電話が来てる。たぶんメッセージもいっぱい」 「え」  指さされたのはベッドサイドのスタンドに置いてあるスマホ。  昨日放置してしまったから、家に帰ってきてからすぐ充電してそのまま放っていたんだけど、どうやらそこに着信が来ているらしい。  慌てて確認すれば、確かにあかりさんから山のような連絡が来ている。やっぱり急に帰ったことをおかしく思っているようだ。ずっとスマホを手に持っていたはずなのに、思った以上にテンパっていたのだろう。全然気づいていなかった。  もちろん仕事が忙しいからずっとってわけではないけれど、合間合間に連絡をくれたんだろう。そう考えると結構な数だ。 「ちゃんと話した方がいいんじゃないの」 「……うん」 「好きなんでしょ? その『あかりさん』のこと」 「好き、だけど」 「じゃあそれでいいじゃん。せめてメッセージぐらいは返しときなよ。話すのは気持ちが落ち着いてからでもいいし」  気遣いのできる男柳くんはそんなことまでアドバイスをくれて、すぐにいっぱいいっぱいになってしまう僕に道筋を指し示してくれる。  本当に頭が上がらないほどお世話になってしまった。 「とりあえず俺は帰るからさ、好きなだけ悩んでいいけどポジティブな気持ち優先にしな。千草は『ガチ恋』ってやつじゃないって言ってたけど、俺的にはどんな形でも好きは好きだと思うよ」  最後までちゃんとフォローとアドバイスを置いて、柳くんは帰っていった。なんてさっぱりした去り際。今度ご飯奢らせてもらおう。  柳くんが帰った後、一息ついてスマホを手に取る。  僕の様子が変だったことを気にして、ちゃんと会って話そうとしてくれてるメッセージがたくさん届いている。今日だって変わらず忙しいだろうに、僕のことを気遣って心配してくれている。  なんで僕の周りの人はみんな優しいんだ。  ともかく余計な心配はさせないようにメッセージを返して、時間ができた時に僕の考えを聞いてもらおう。  好きな気持ちと、戸惑う気持ちと、不安と心配をちゃんと言葉にして。 「ん?」  そう決めてスマホを操作しようとした時、チャイムが鳴った。  もしかして、あかりさんが? 「はーい。……あ」  だったら早く開けないと、と大して確かめもせずドアを開けたことをすぐに後悔した。 「よう、おサボりさん。ダメだぞ、授業サボっちゃ。ヒートでも来たか?」  そこには前と同じようにカメラを持った潤がいて、しまったと思ったけれど遅かった。なんで僕は相手を確かめずに出てしまったんだ。 「う、潤には関係ないから」  今回は話も聞かずにすぐドアを閉めようとしたけれど、それより早く潤が中に入ってきた。ドアを押さえられればそれだけでもう僕には閉める手立てがない。

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