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首輪はもういらない 4
「実はさ前に見せたデート写真他にも見つけたからわざわざ印刷してきてやった。記念に欲しいかと思って。俺の撮った写真もほら」
わざわざ封筒に入れられていたそれを目の前に広げる潤はひどく楽しそう。
前に見せられたSNSに載っていた写真のスタンプがないもので、ばっちり僕の顔が映っている。その後のレストランの隠し撮りまである。どうやらそれを撮った相手にわざわざ連絡を取って手に入れたようだ。
他にも家に来たあかりさんの写真が何枚も、車のナンバーが見えるくらい明るく加工されて印刷されている。
「なんでこんなことするの……」
「は? いやだから、千草はこういうの向いてないって傷つく前に目覚まさせてやろうと……あ?」
潤の視線が僕の首元に移る。反射的に一歩引いたけど、潤の手が伸びる方が早かった。バラバラと写真が散る。
「いっ……!」
「お前もしかして」
首を掴まれ、そのまま強引に引っ張られて頭を下げられる。たぶん潤が見たのはうなじ。
僕が首輪をしていないことに気づいて確かめたのだろう。そこになにがあるか。
「は、マジでヤったの?」
「痛い痛い!」
「消えないし。相手あのアイドルか? はあー、オメガのフェロモンってやっぱやばいんだな」
うなじに残る歯型を爪を立てて擦られて、痛みに呻く。けれど潤は構わず僕の首を掴んだまま感心したように息を吐いた。
「良かったじゃん、オメガの武器使えて。まさか千草がヒート使ってアルファをオとすとは」
「別にわざとやったわけじゃ……」
「なあ、ヒート中にヤるってどういう感じなの? やっぱ獣みたいに盛っちゃう感じ? 乗っかったりすんの? いやーやっぱ千草も立派なオメガなんだな。大人しそうな顔してちゃっかりアルファの芸能人捕まえてヤりまくってるとか」
「そういう言い方……っ」
「ていうか、今もヒート中ってこと? マジでフェロモンの匂いしないけど」
「やだ、やめっ……うわ」
抱き寄せられるようにうなじの匂いを嗅がれて、ぞっとして力いっぱいその体を押したけどふらついたのは僕の方だった。体格はそれほど変わらないはずなのに、アルファとオメガの力の差がこんなところで出るとは。
勢いで尻もちをついて、はっと気がついて顔を上げると潤が僕を見下ろしていた。
「なあ。番になると他のアルファ受け付けないってマジ?」
起き上がるより先に後ずさって逃げようとしたけれど、だんっと踏みつけられた足がその勢いを殺す。そして僕に跨るようにして腰を下ろした潤が両手で僕の肩を押した。ついた両手を踏ん張ったけど叶わず、その場に転がってしまう。
パシャリとシャッターの音とフラッシュを浴びて、柳くんの忠告がよぎる。
ごめん、柳くん。意地悪なんかじゃなかった。もっと本気でちゃんと警戒すべき相手だった。後悔先に立たずとはまさにこのことだ。
「似合ってるよ、そうやって男の下にいる顔。さすがオメガ」
「うぐ、ぐぬぬ」
「本気で抵抗してる? してないよな」
「してる!」
なんとか潤の体を押し返そうと両手を突っ張るけれどまったく敵わないどころか笑われている。逆にぐぐっと顔を近づけられて、顔を背けながら必死で押し返す。
体勢的にも体力的にも不利なのは自明の理。でも抵抗しないわけにはいかない。
だってまだ取り消してないから僕はあかりさんの番なんだ。それなのにここで他のアルファに好きにされるわけにはいかない。
「試してやるよ。ヒート中なら、体は準備万端ってことだろ? 千草の貧相な体なんか全然興味ねーけど、俺に黙って勝手に番作ったのむかつくしお仕置きして……」
「俺の番になにしてるんだ?」
気持ちだけは諦めずとも状況は絶望的で、潤に押さえつけられたまま服に手をかけられた瞬間、声がした。
低く怒りに満ちた声はこんな状況なのにとてもセクシーで、僕のうなじがびりびりと反応する。
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