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首輪はもういらない 7
「僕、色々自信なくて、僕なんかがあかりさんの番にって思うんですけど、それでもあかりさんの番だから強くなれると思うんです」
実際さっき怖さに支配されなかったのは、負けるわけにはいかなかったからだ。
そう思えたのは、僕のうなじにあかりさんの残した跡がくっきりついているから。
その跡に触れるあかりさんが指先が優しくて、それも小さな自信になる。
「それにこれだけは自信を持って言えます。あかりさんのこと、大好きです」
「俺も泉を愛してる」
頑張って口にしたその言葉を簡単に上回るように囁かれぎゅうぎゅうと抱きしめられて、クールなイメージが台無しなのにかっこよくて笑ってしまった。
結局なにしててでもかっこいいんだもんな。ずるい。
「……そもそも僕、あかりさんのために、っていうかスオウのために番を作りたかったんですよね」
「は? どういうことだかその話を詳しく聞きたい」
そもそも番を作ろうと思った原因がメグスクのライブに迷惑かけずに行きたいからで、そのためのマッチングアプリだったのに。それが巡り巡ってこんなことになったのは、やっぱり「運命」だったりするのだろうか。
そんな呟きにすぐさま食いつかれてまた笑ったら、そこでふとあかりさんが我に返ったらしい。
玄関で抱き合っていたことに今さら気づき、持って来てくれたらしい荷物を差し出された。そういえば僕、スマホ以外のものを全部あかりさんの家に忘れてきたんだった。
さすがにこれを置いて飛び出していったらおかしいと思うか。でも、だからこそこのタイミングであかりさんが訪れてくれたんだったら、それはそれで必要なことだったのかもしれない。そうポジティブに考えておくことにした。
「なあ泉」
とりあえず上がっていってくださいと家の中に招こうとしたら、靴を脱ぐ手前であかりさんが止まった。そして神妙な様子で口を開く。
「なにもしないから、泊まっていってもいいか? 話を聞きたいのとは別に、さすがにこのまま一人にするのは心配だ」
「……なんにもしないんですか?」
今さっきのことがあったから気遣ってくれているんだろうけど、わざわざ断るような大人の提案にきょとんとしてしまった。
もちろん優しさで言ってくれてるのはわかっているけれど、優しすぎるというか、逆に寂しいというか。
「僕まだヒート中なんですけど」
両手を伸ばして端的に事実を告げる。
番になったからと言ってヒートがなくなるわけでもフェロモンが出なくなるわけでもない。
むしろ番相手ができたことで、その相手に向けて強烈に放たれているのがわかる。しかも元から好きな人がその相手なんだ。抑えろっていうのは本能的にも無理な話だと思う。
そして当然それは、相手であるあかりさんも同じ条件で。
「……少しくらいかっこつけたかったんだけどな」
靴を脱いで上がってきたと同時にハグからのキス。
さっきまでの保護者のハグではなく、キスも先を匂わす甘いもの。指先で番の印をなぞられ、もう一度キスをされたらもう立っていられないくらいうっとりと気持ちが溶けた。
「あかりさんはいつでもかっこいいですよ」
「そうでありたいけど、この先の保証はできかねる」
フェロモンに惑わされるあかりさんもそれはそれでかっこいいと思うけど、それを伝えられるタイミングは残念ながらなかった。
そして今まであまり気にしたことがなかったけれど、今は願わずにいられない。
どうか、家の壁が薄くありませんように。
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