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改めまして運命 1
「……っ!」
目覚めた瞬間、目の前にとんでもなく整った顔があって心臓が止まりそうになった。
こんなリアルなグッズあったっけ、と寝ぼけた頭で考えて、それから本物の質感に改めて息を飲む。
力強い眉としっかりした鼻筋、今は閉じられているまぶたの先のまつ毛までかっこいい。厚めの唇は今は薄っすら開かれていて、小さな寝息が聞こえてくる。撮影中かのような整った寝顔はいくら見ても飽きないかっこよさ。
……いけない。なかなかこんなにまじまじと顔を見ることがないから観察するように見てしまったけど、視線で起こしてしまいそうだ。そう、静かに離れようとして気づく。
背中に回ったあかりさんの腕が、しっかりと僕をホールドしている。
覚えている限りこんな風には寝ていないから、あかりさんが改めてこうやって眠りについたんだろう。
まいった。抜け出せない。でもいつまでもこうしているわけにもいかない。まだ大丈夫とはいえ学校もあるし、なによりこの至近距離は心臓がもたない。
なんとかあかりさんを起こさずに抜け出せないものかもぞもぞしていたら、いつの間にか穏やかだった寝息が止まっていた。
「……おはよう、泉」
「おはようございます。あの、手を放してもらっていいですか」
「やだ」
恐る恐るのお願いに返ってきたのは端的なノー。
目を細め、短い返事とともに腕に力を込めるという望みとは反対の行動をされる。
「またいなくなられたら困る」
そしえ唸るような訴えで思い出したのは、昨日の朝の自分の行動。確かに昨日はやってしまったという後悔で逃げ出したけど、もうそんな必要はない。
「起きるだけですよ。それにここは僕の家ですから逃げるとこないです」
だからお願いしますと軽く体を叩くと、あかりさんは目をつぶったまましばし沈黙した。寝ているのかと思えば渋々といった感じで解放されたから、やっと緊張からも解放されてベッドから抜け出す。
「まだ時間大丈夫なら寝ててください」
ただでさえ毎日お疲れなんだし、できるだけ休んでいてもらいたい。
そう思ったんだけど、あかりさんはもぞりとうつ伏せになって、顔を伏せたまま頭を振った。
「いや、起きる……けど待ってくれ。朝、弱いんだ」
「知ってますよ。ファンですから。コーヒー淹れますね」
みんながみんなとは言わないけど、長めのファンの間ではわりとよく知られている話だ。朝からのロケで不機嫌ではないのにローテンションなスオウを何度も見た。昨日の朝、動きが鈍かったのもこのせいだろう。
朝とか苦いコーヒーとか、こう見えてスオウには弱点が多い。そういうところもまた魅力だと僕は思う。
ああ、そう思うとあの朝デートも頑張ってくれていたんだなと特別な気持ちになった。
「……やっぱりミルク三つは偶然じゃなかったのか?」
「そりゃあそうですよ。ファンの間では常識ですもん」
どうやらあかりさんも同じ時のことを思い出したようで、僕のやらかしたミスをしっかり覚えていてくれた。あれは本当にやらかした。
まあ、元からファンだと知られていたのだからミスもなにもないかもしれないけど、それにしたって当たり前にコーヒーの好みを当てちゃあダメだろう。本当だったら訝しがられて終わっていた話だ。
「ファンってのはそんなことまで覚えてるんだな」
そしてこちらには常識でも、向こう側からするとそんな小さなことを覚えているのが不思議らしい。
気だるそうに寝転がりながら感心するあかりさんはどこかまだぼんやりしていて寝ぼけた様子。
それだけでもやばかったのに、うつ伏せで頬杖をつきながら前髪を掻き上げる仕草を見て、さすがに腰が砕けた。
「ちょっと待ってください、かっこいいがすぎる……」
あまりにグラビア撮影風すぎて、今さらのタイミングでそこにいるのがスオウだと思い知らされてしまった。
朝から破壊力が高い。
というか自分の部屋にスオウがいる違和感がすごいのに、それさえも風景にしてしまえる存在感に頭が痛くなる。腰が抜けるってこういうことを言うんだろう。
情けなくキッチンにへたり込んでいる僕を見て、あかりさんはもう一度寝返りを振って小さく笑った。
「泉、コーヒーはいいから」
「え?」
「おいで」
緩い微笑みとともに手を差し出されて、危うく悲鳴を上げそうになる。
寝起きのあかりさんはやばい。なんかもう色々とやばい。
考える機能を焼かれたみたいに頭が真っ白になって、言われた通り這うようにベッドに戻る。
すると僕を引っ張り上げたあかりさんがちゅっちゅっと可愛い音を立ててキスを落とし始めた。目が覚めているのか寝ぼけているのか難しいところだ。
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