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11月 1 ②
完全会員制ソーシャル・クラブ「ディレット・マルティール」のスタッフは、ホームページによると、ゴールド・シルバー・ブロンズの3つのランクに分けられている。きっと人気などで決まっているのだろうが、ランクにより、指名料が違う。
ゴールドクラスのスタッフは、写真で見てもやはり容姿がずば抜けていた。こんなきれいな、しかも皆良い大学を出ている(何故かプロフィール欄に最終学歴が公開されていた)才色兼備の男子たちを、渋谷の安っぽいホテル街に呼びつけるなんて、恐れ多いにも程がある。
さくこと高畑朔は、シルバースタッフである。会社ではスーツ姿しか見ることは無いが、プロフィールの写真は魅力的で、柔らかそうな深緑色のニットが良く似合っていた。福島県出身で、宮城県にある国立大学の教育学部を卒業している。
会社で履歴書を見たことは無いので、高畑の出身地や学歴はそれまで知らなかった。仙台に親戚がいてよく訪れた晃嗣は、彼に親近感を抱いた。あの大学の教育学部を出ているなら引く手数多だろうに、何故教員を目指さなかったのだろうと、ちらっと思った。
高畑の話していたデートコースは、1時間あたりの価格が、通常の性的サービスを伴うコースの3分の1だった。施設への入場料や飲食代が客持ちとしても、確かにお得感がある。ただし利用に上限があり、1回2.5時間、月2回まで。
とは言え、30代のサラリーマンとして平均的な収入を得ている晃嗣でも、シルバースタッフが相手ならば、通常コース1回とデートコース1回が1ヶ月で指名できる限界だった。晃嗣は社会人になって初めて、もう少し出世して管理職手当が欲しいと思った。
晃嗣はさくのスケジュールをチェックして、出勤日数の少ない彼とは2時間以上のデートをするのが難しいと知る。非接触デートは1時間では物足りない。ならば彼を指名したい客は、1時間の通常コースを申し込まざるを得ないのだ。やられた、と晃嗣は思う。
ふと来週の水曜日、さくの20時以降のスケジュールにぽっかり空きがあるのが目に止まった。キャンセルでもあったのだろうか。晃嗣は22時までの2時間分のマスをクリックした。どきどきしながらデートコースを選択してみる。すると、確認画面が現れた。
晃嗣はあっ、と思わず歓喜の声を上げて、急いでクレジットカードの番号とセキュリティコードを入力する。誰かがこの時間にさくを捕まえてしまわないうちに、彼の予定を押さえるのだ。
申し込みは滞りなく完了して、すぐに確認のメールが来た。晃嗣はひとり小さなガッツポーズをする。デートコースの詳細な案内をあらためて見ると、性的なサービスを含まないスケジュールを、客が自由に組めばいいようだ。オプションとして、スタッフにコースを任せることもできる。
週のど真ん中の夜にデートの予定を入れるなんて、愚かしいと晃嗣は自虐した。まあ、これが週の後半への活力になると信じよう。晃嗣は満足して、寝る用意を始めた。
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