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「先輩だから好き…じゃ、ダメッスか?」
…だから、そういう不意打ちみたいな発言は止めて欲しい。
昨日知り合ったばかりのヤツなのに。
疑う余地も無いくらい真っ直ぐだなんて、狡いじゃないか…。
「ただ見てただけで…僕の何が解るって言うんだっ…!」
何がこんなにも僕を必死にさせるのか。
ついには声も呼吸も荒くなってくる。
「たくさん知ってますよ?男相手でも好きだって、自覚出来るくらい…色んなことを、さ。」
ふいに伸ばされた手が、僕の頬を掠める。
擽ったさと、他人に触れられる警戒心にビクリと肩が揺れたが…どうしても、逃げる事が叶わない。
「例えば…本なら大人向けの童話や詩集、伝記モノが好きだって事とか…」
飲まれるな。
だっておかしいじゃないか、こんな事…
「学校では、真面目できっちり優等生してるけど。たま~に寝癖付いてたりするのが、可愛いなぁとか…」
慈しむように、僕の長い前髪でじゃれる指先。
いつもは誰も入ろうとしない僕の領域に。
こうもすんなりと、入り込んで来るだなんて…。
「人と話すのは苦手だし、緊張すると無口で無表情になっちゃうけど。本読んでる時はすっごく表情豊かでさ。まるで百面相してるみたいに、笑ったり泣きそうになったりして────…」
「ッ…もう、いい!」
聞きたくなんかない。
他人の口から初めて暴かれる、自分ですら自覚していなかった事実なんて…。
「お…お前が、危ないストーカーなのは充分解った…。」
「ええ~酷いなぁ~…。」
抗議する芝崎を、うるさい!と一喝して黙らせれば。
情けなくもシュンと大きな背中を縮めてしまい。
物欲しそうに見やがって…
これじゃどっちが被害者なのか、解らないじゃないか…。
「お前は一体、どう…したいんだ…?」
昨日からずっと溜め息ばかり。
もし一生分の幸せに限りがあるのなら…
僕の運は既に尽きてしまってるんじゃ、ないだろうか。
「告白して、それで満足なのか?」
此処でコイツを拒絶したらどうなるだろう?
この想定外な告白も、そのうち記憶の奥底で消え去って…これまでの“日常”を、また取り戻せるのだろうか?
その決定権は僕にあるはずなのに。
受け身な筈のコイツの表情には、戸惑う素振りすら見られない。
むしろ余裕たっぷりにさえ見えてくるのだから。
気に入らない…。
「勿論、先輩を独り占めしたいよ…。」
虫も殺さぬような顔をして。
なんてキザな台詞を吐きやがるんだコイツは───…
昂る感情に、カッと熱くなってしまう目頭を誤魔化すように。僕の眉間には深々と皺が刻まれる。
…顔が熱いのは、どうか気の所為だと言ってくれ。
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