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「それは…恋人になりたいと言う意味か?」
こくんと、今度は子どものように頷く芝崎。
何でコイツには、いちいち迷いがないのだろうか?
「なら無理だ…付き合うとか、解らないし…。」
「オレが…男だから?」
「いや…」
普段は平気で毒を吐けるのに。
本当に傷付けてしまう事には、憚れる。
他人に対する免疫が少ないから余計に…だ。
「好き、とか、良く解らない…。お前が僕の事を知っていたとしても。僕はお前の事なんて、知らない…。」
期待させるのは、最上級の罪。
それを認識してるのだから、更に質が悪い。
「優しいッスね、先輩は。じゃあ…さ。ちゃんと知ってからなら、考えてくれる?」
ゆっくりと、芝崎が近付く。
どうしよう…なんて、考える暇も無く。
気が付けば僕は、腕を引かれ…抱き締められた。
まるでお日様みたいに暖かくて。
それと同じような、良い匂いがする…。
自分より一回り以上も大きな身体。
すっぽり収められると、かなり逞しいのが解り…。
もしかしたら運動部じゃないのか、とか…
現実逃避みたいに、関係の無い事を…ぼんやりと考えてしまった。
誰も居ない放課後の図書室。
今、誰か来てしまったらどうしよう…。
こんな所を見られて…上手く躱せる自信なんて僕には全く無いし。妙な噂でも立てられたら、困るのだけど…
「は、なせっ…」
胸板を押し返してみるも、ちっとも腕に力が入らない。もっともこの体格差で、非力な僕が力で勝てる見込みなんて無いだろうが…。
芝崎が触れる箇所が、やけに熱を帯びてくるもんだから。身体も思考も全部が麻痺して…上手く機能しないんだ。
ギュッと強く抱かれ、更に縮まる距離。
耳元に直接、芝崎の熱っぽい息がかかってきて…。
僕の身体は大袈裟なくらい跳ね上がる。
「知ってよ…先輩。オレももっと貴方を知りたいから…。」
やけに低音で囁かれる声は、こんな時だからこそ無駄に色っぽく聞こえて…。
僕が女ならきっと、抵抗無くこの場であっさりと恋に堕ちてしまいそうな程に、甘い。
正直好きになるとか、
この先の事など判らないけれど。
ちょっとした好奇心みたいなものが内に芽生えて…
まるで忠犬みたいなコイツを知ってやるのも、
悪くはないなとか。
珍しくも思ってしまったから…。
その腕を無闇に振り払うのは、止める事にした…。
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