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連れて来られたのは旧館1階の最奥、非常扉の前。
こんな辺鄙な所には、流石に誰の姿も見当たらない。
そのまま扉を開けてすぐのコンクリートの石段に、
並んで腰を下ろした。
「ここで良かったかな?先輩は、静かな所が好きだと思ってさ…。」
確かにここなら誰も来ないし、人目も気にならないから申し分ない。肯定の意を込めて僕はコクリと頷く。
ここまで来るのに、何度も芝崎の知り合いに捕まっては、そのつど好奇の眼差しに晒されたお陰もあり…少々ウンザリしていた所だ。
馴れない体験をすると、精神的疲労感は否めないな…。
なんというか、芝崎は無駄に知り合いが多い。
人柄なのか、誰もが好意的にコイツへと接してくる。
同級生に先輩、後輩…果ては教師に至るまで。
浅く狭い僕の人間関係と比べると、それはとても信じられない光景だった。
食欲は著しく低下していたものの、此処まで来た目的を実行しなければ話にならない。
のそのそと弁当箱を取り出していると、隣では芝崎がコンビニ袋を漁り始めた。
「…それだけ、か…?」
この図体では、食事の量も凄そうだなと予想していたのに。芝崎の袋の中身は、惣菜パンがふたつにパックのコーヒー牛乳がひとつだけと、意外にも質素な量だった。
「ん~?あっ、ホントは全然足りないんスけど…。うち、昼飯代もこずかいに含まれるんで。節約してるんすよね~。先輩は弁当ッスか?」
「ああ…。」
紺色の包みを解き、パカッと蓋を開ける。
興味津々とばかりに中身を覗いていた芝崎は。
途端に目を輝かせ、感嘆の声を発した。
「すっげえ~…先輩のお弁当メチャクチャ美味そう!」
中身は至ってシンプルな、和食中心のお弁当。
殆どが昨日の残りなんかで作った素朴な内容だったが…芝崎はまるで宝箱でもみてるみたいに、キラキラした目でお弁当を見つめている。
「へぇ~、先輩のお母さんて料理上手なんスね!」
「いや…コレは、僕が…自分で…」
「え……ええっ!?」
怖ず怖ずと告げれば、驚愕して弁当と僕を交互に見比べる芝崎。
やっぱりおかしいのだろうか?
男が自分で弁当を作っているとか…。
「先輩の、手料理…」
ボソッと呟いた芝崎の喉が、ゴクリと鳴るのが聞こえて。
芝崎はなんとも物欲しそうな表情で…
弁当へと、釘付けになっているものだから。
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