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「……食う、か…?」 なんだか急に恥ずかしくなり。 居心地の悪さから、おずおず弁当箱を差し出すと…。 芝崎の顔が俄にパッと花開く。 「いっ、いいんスか!?…あ、でもそれじゃ先輩足りなくなるよね…?パンひとつあげようか?」 「いや、あまり食欲が無いから…どれが欲しいんだ?」 問えばお菓子を選ぶ子どもみたいに、吟味する芝崎。 散々悩んだ結果、こちらを向いて「卵焼き!」と告げた姿が、なんだか微笑ましくなり。 つい笑みが、零れてしまった。 僕は卵焼きを箸でひとつ取り出して、 芝崎の口元に掲げてやる。 ところが芝崎は口を開かず…それどころか、ピシリと人形みたいに固まって動かなくなってしまったので。 「…どうした?食わないのか?」 「えっ、あっ…そのっ。」 何故かオロオロと卵焼きを見つめたまま、 一向に食べようとしない芝崎。 「食べたく無いか…?」 やはり男が作った弁当なんて、抵抗があるのだろうか… 少しだけ気まずくなり、箸を引っ込めようとしたら。 我に返った芝崎にガシリと腕を掴まれてしまい。 驚いたが、遠慮がちにも口を開けてきたので。 僕もゆっくりとそれを口へと運んでやった。 「…どうだ?美味いか?」 モゴモゴしながら首がもげそうな位、何度も縦に振る芝崎。動きが虎の玩具みたいで面白い。 若干顔が赤い気がするが、気の所為だろうか? 気にせず、今度は竹輪の磯部揚げを差し出してみた。 コレにはもう躊躇う様子はなく。すんなり食べてくれた。 「…コレも、手作り?」 めちゃめちゃ美味いと誉め倒す芝崎。 思えば母親意外に、手料理を食べて貰うという機会があまりなかったので。 その賞賛は、素直に嬉しいと感じた。 「ああ…うちは母子家庭だから、な…。」 同情とか、面倒だから。あまり家庭事情を話したことなんて殆ど無かったのだけど。 気を良くしてしまった僕は、ついつい饒舌になる。 「へぇ~…そっか。だからこんな料理上手なんスね!スッゲ~、先輩カッコイイ!!」 …コイツはこういう奴だから、遠慮なんて無用なんだろうけど。 それからは昼休みギリギリまで、互いの事を話ながら過ごした。まあ、大半は芝崎が勝手に喋っていたのだけど…。 久しぶりにも他人と接する事が、こんなにも楽しいだなんて。 柄にもなく、そんな事を思ったのことは… 芝崎には秘密にしておこう。

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