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side. A ずっと、見てた。 偶然にも…アイツの隠された“存在感”に、 気付かされた日から、毎日。 だから、解るんだ。 お前のその変わりようが、手に取るように───… アイツを知ったのは2年の終わり。 素行の悪い俺は足りない単位を埋めるため、 教科担任から課題提出を課せられていた。 別に進級する気もねぇのに… 建て前で心配だと口にする教師が鬱陶しくて。 俺は無視を決め込んだ。 …けど、アイツは違った。 今まで存在すら知らなかった奴なのに。 しつこいくらいに絡んできた奴がいた… それがアイツ… 水島、だった。 友達でも無ければクラスメイトでもない。 俺は悪い意味で目立ってたから、アイツも噂位は知ってただろうけど。 はっきり言って初対面。 なのに何故かアイツは、俺を見捨てなかった。 教科担任が受け持ってたクラスの委員長だった水島。 きっと教師に無理やり頼まれたんだろう。 わざわざ俺の所まで来て、課題を出すよう進言してきた。 所謂、優等生だった水島は。 不良で有名な俺に怯むことも無く、毎日やって来ては課題、課題としつこく要求して来る。 最初はただウザかった。赤の他人が、何で俺みたいな問題児に関わろうとするのかが…理解出来なくて。 そんな水島の態度に、不覚にも動揺して。 俺は掴まれた腕を、乱暴に振り払ってしまった。 勢い良く床に倒れる水島。 カツンッと音をたて、ヤツの眼鏡が吹っ飛んだ。 流石に罪悪感を抱いたが… あくまで平静を装い、水島を鋭く見下ろした。 その時、床に尻をついたまま… 俺に向けられた酷く冷めた眼が。 一瞬にして俺の全てを、支配しやがったんだ。 普段はレンズと長い黒髪に隠れ、 伺う事が叶わないその眼が… 強く、儚くて。 俺は見事に、堕とされた。 結局…ギリギリで課題を提出し終えた俺は、 無事に進級を果たす。 その際、教科担任に聞かされた事実が… 俺の中で弾けた感情の名を、見事に決定づける。 『水島に感謝しろよ?俺は正直諦めてたんだがなぁ…。アイツからお前を説得したいと、申し出てくれたんだからな。』 3年になって、偶然にもアイツと同じクラスになる。 そん時は、理数系が得意だった自分に感謝した。 コッソリ見た出席簿から、 名前が『綾兎(あやと)』だと知り…更に想いは募る。 2年まで連んでた唯一の親友は、 文系クラスで離れたから。 アイツは多分ひとり。 あの性格だから今もアイツは独りきり。 半分は俺が、仕向けたんだから。 アイツに声を掛けるようなクラスメイトは皆無。 籠の中、密かに隠し慈しむ。 ──────そう、安心したのも束の間。 いつもの仮面は何処へ捨ててきたのか…。 柔らかくなった雰囲気。 授業中でも時折見せる…遠い誰かに馳せるような、 思い出し笑い。 それは、初めて知る水島の素顔で。 ドキリとした。 あんなに、感情とは無縁だったアイツが… ここ数日で劇的変化を遂げた事。 俺の知らない、が。 アイツを…変えてしまったんだ。 閉ざされた鋼鉄の扉を、いとも容易くこじ開けて。 アイツの隣に居着いた存在。 昼休みと共に、空気に混じって教室を出た水島。 その後珍しく予鈴ギリギリで、足早に戻って来た水島の、 楽しそうな表情に… 俺は、途方も無い焦りを感じたんだ。

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