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僕の存在を気にしながら、芝崎は重たげに口を開く。 「ああ…一応完治はしてるよ…。町田、悪いけどオレ先輩を待たせてるから…」 これ以上、会話を聞かれたくないのか。 芝崎は僕を言い訳に話を中断させる。 「あっ…ごめんなさい、気がつかなくて…。芝崎君、制服…」 彼女には何の罪も無いのに。 解っていても、落ち着かない。 芝崎は気にするなと素っ気なくも返し。 無理やりに別れを切り出した。 町田さんは、まだ何か言いたそうにしてるのに。 相手の反応も無視して、立ち去ろうとするなんて… 有り得ない。 名残惜しそうに芝崎の背を見つめている町田さん。 戸惑う僕の腕を掴み、 そんな町田さんから逃げるように急かす芝崎。 居心地の悪さと申し訳なさに、町田さんを振り返れば…切なそうな瞳とぶつかって、深々と頭を下げられた。 その後の芝崎は、明らかに異常だった。 いつもなら別れ際ギリギリまで甘えてくる癖に…。 今日は荷物を玄関に置いたら、あっさりと帰ってしまった。 いきなりこんな態度をとられたら、 正直どうしていいのかが解らない…。 『先輩、あのっ…─────』 殆ど無言だった帰り道。 何かを言いかけて口を噤んだアイツの。 初めて見せた、偽りの笑顔。 僕らは知り合って、まだ間もないけれど。 それでも芝崎は分かり易いから。 いくら鈍感な僕にでも、気付いてしまえるくらい… 本当に不自然な笑顔だった。 『サヨナラ』と、目も合わさず背を向ける芝崎。 後ろ姿が何故か滲んで見えて、 無性に胸が締め付けられた。 頭を掠めるのは、 “町田さん”と言う女の子の姿。 今時珍しい位に、物腰の柔らかそうな()だった。 例えば芝崎の隣に並んで歩けば、 しっくりくるような… むしろお似合いの、恋人同士みたいな────… 「ッ………!」 確証のない推測でヘコむなんて、らしくない。 けど苦しくて。 胸を押さえ、玄関にしゃがみ込む。 (もしかして…) 恋人…─────だったんじゃないだろうか? ふたりで行動するようになってからは、 芝崎の同級生の女の子にも何度か遭遇した事があった。 けれどアイツは、いつでも気さくに対応していたんだ。 町田さんだけが、特別…? 仲が良い、と言う雰囲気では…無かったけど。 過去に2人の間で何かあったのは、明確だから…。 苛々と、霞ゆく僕の心。 芝崎ひとりの為に、 何故ここまで心乱されてしまうのか。 何かを言いかけた癖に、 僕が好きだと言う癖に、 ズルいじゃないか…こんなやり逃げみたいな仕打ち。 「何なんだっ…クソッ…!」 テストの問題なら、 勉強さえしてれば何てことないのに。 コレばかりは、手の打ちようが無い。 お前が“応え”をくれないと、 僕は本当に、おかしくなってしまいそうだ…。 そうして、 いつまでも解放されない真っ暗闇な感情に。 僕は少しずつ、蝕まれていくんだ。

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