23 / 67
22
僕の存在を気にしながら、芝崎は重たげに口を開く。
「ああ…一応完治はしてるよ…。町田、悪いけどオレ先輩を待たせてるから…」
これ以上、会話を聞かれたくないのか。
芝崎は僕を言い訳に話を中断させる。
「あっ…ごめんなさい、気がつかなくて…。芝崎君、制服…」
彼女には何の罪も無いのに。
解っていても、落ち着かない。
芝崎は気にするなと素っ気なくも返し。
無理やりに別れを切り出した。
町田さんは、まだ何か言いたそうにしてるのに。
相手の反応も無視して、立ち去ろうとするなんて…
有り得ない。
名残惜しそうに芝崎の背を見つめている町田さん。
戸惑う僕の腕を掴み、
そんな町田さんから逃げるように急かす芝崎。
居心地の悪さと申し訳なさに、町田さんを振り返れば…切なそうな瞳とぶつかって、深々と頭を下げられた。
その後の芝崎は、明らかに異常だった。
いつもなら別れ際ギリギリまで甘えてくる癖に…。
今日は荷物を玄関に置いたら、あっさりと帰ってしまった。
いきなりこんな態度をとられたら、
正直どうしていいのかが解らない…。
『先輩、あのっ…─────』
殆ど無言だった帰り道。
何かを言いかけて口を噤んだアイツの。
初めて見せた、偽りの笑顔。
僕らは知り合って、まだ間もないけれど。
それでも芝崎は分かり易いから。
いくら鈍感な僕にでも、気付いてしまえるくらい…
本当に不自然な笑顔だった。
『サヨナラ』と、目も合わさず背を向ける芝崎。
後ろ姿が何故か滲んで見えて、
無性に胸が締め付けられた。
頭を掠めるのは、
“町田さん”と言う女の子の姿。
今時珍しい位に、物腰の柔らかそうな娘 だった。
例えば芝崎の隣に並んで歩けば、
しっくりくるような…
むしろお似合いの、恋人同士みたいな────…
「ッ………!」
確証のない推測でヘコむなんて、らしくない。
けど苦しくて。
胸を押さえ、玄関にしゃがみ込む。
(もしかして…)
恋人…─────だったんじゃないだろうか?
ふたりで行動するようになってからは、
芝崎の同級生の女の子にも何度か遭遇した事があった。
けれどアイツは、いつでも気さくに対応していたんだ。
町田さんだけが、特別…?
仲が良い、と言う雰囲気では…無かったけど。
過去に2人の間で何かあったのは、明確だから…。
苛々と、霞ゆく僕の心。
芝崎ひとりの為に、
何故ここまで心乱されてしまうのか。
何かを言いかけた癖に、
僕が好きだと言う癖に、
ズルいじゃないか…こんなやり逃げみたいな仕打ち。
「何なんだっ…クソッ…!」
テストの問題なら、
勉強さえしてれば何てことないのに。
コレばかりは、手の打ちようが無い。
お前が“応え”をくれないと、
僕は本当に、おかしくなってしまいそうだ…。
そうして、
いつまでも解放されない真っ暗闇な感情に。
僕は少しずつ、蝕まれていくんだ。
ともだちにシェアしよう!