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「泣いてんのか…?」 突然背後に降りた声に、踞ったまま肩を揺らす。 僕は咄嗟に身を丸め、 漏れそうになる嗚咽を必死で押し殺した。 声でなんとなく、その人物が解った。 彼は学校で最も目立つ存在…だったから。 よりによって────… こんな所を見られた僕は。どうしても震えてしまう身体を、なんとかしようと必死になって抑え付ける。 (……え…?) きっとからかわれる。 そう、思って身構えていたのに。 意外にもは何も言わず。 静かに僕の隣りへと、腰を下ろしてきた。 腕の隙間から、盗み見れば…カチッと音がして。 程なくすると、 紫煙と独特な匂いを辺りに漂わせ始める。 何をするでもなく、 彼───…クラスメイトの上原(うえはら) 昭仁(あきひと)は… 遠くに視線を置いたまま、ただ煙草を吹かしていた。 …未成年の癖に。 しかし今の僕には、そんな常識を指摘するような気力など…微塵もなくて。 沈黙が落ち着かない。 誰かに泣き顔を晒すなんて…何年振りだろうか。 しかも相手は上原…。 進級にあたって、単位が足らなかった上原には。 当時僕の担任だった教師から課題が出されていた。 その際…僕が課題を出すよう再三に渡り、 しつこく要求したため。 結果…どうやら目を付けられてしまったらしい。 3年になり、同じクラスになってからというもの…。 あからさまではないにしろ、度々絡まれるようになってしまった。 上原は所謂不良というヤツで。 喧嘩っ早く、素行も悪いと評判の札付き。 忽ちクラスメイトからは敬遠される羽目になり。 それからは常に独りを余儀なくされた。 それが苦痛だとは思わないが… 真っ向から敵視されるのには、気持ちの良いものではなく。 そもそも上原は友達でもなければ、顔見知りでさえなかった。クラスも2年までは別々だったし…。 問題児なのだから放って置いた方が、生徒にとっても学校にとっても安泰だったに違いないだろう。 現に当時の担任は、上原の愚痴を委員長だった僕に零すだけで。進級に向け、積極的に動いている様子も無く。完全に放置しているようだったし… けれどそれが、逆に僕の心を動かした。 父を早くに亡くし、母子家庭だったのもあり。 苦労だとか親のありがたみやらを、人一倍理解していたつもりだったから。 変な使命感に駆られて。 つい、上原に関わってしまった。 おかげで上原は無事進級を果たし、 感謝されるどころか、今では恩を仇で返される始末。 それを後悔してる訳じゃないが。 流石に上原の冷たい態度には、 正直、参ってたんだ…。

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