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「カンケイ、あるんだよ…。」 切羽詰まったような掠れ声。 ギラリとした、 切れ長の鋭い眼差しで僕を捕らえ… 突然腕を引かれ、 耳元で吐き出された台詞。 「アイツは、お前の事が─────」 “好きなんだろう?” 芝崎とは異なる、野性的な重低音。 ヤケに色香を放つ、狼にも似たその美貌。 芝崎が光なら、 上原はきっと、闇に住まう生き物。 その性質は対局ながらも。 人を虜にするような魅力と存在感は変わらないな、と…僕はふと思った。 「な、にを…?」 心臓が煩い。 芝崎が直接与えてくるような、 甘ったるい愛の告白ではなくて。 第三者が紡ぎ出した、突飛な証言。 …どうして? 僕にしか知らされて無いはずなのに。 どうして上原が、芝崎が僕に抱く感情の意味を、 知っているのだろうか…。 そしてそれが上原に、 なんの関係があるというのか…。 もしかすると… 『僕』という(てい)のいい玩具を、横取りされたから… 面白くないとか、そういう事なんだろうか? …どんな理由にせよ、 上原に直接関わりが無い以上、 単なる逆恨みだと思うのだが…。 「何でだよ…俺だって────」 “ずっとお前を見てたのに…” 近付けられた距離が、更に縮められる。 後頭部を押さえられ、 僕の額が、上原の肩へとぶつかった。 そのままギュッと、乱暴に抱き締められる。 「ちょっ…上原…?」 名を呼べば、 一瞬身体を震わせるものの、腕の力が強まるだけ。 今までとは違う、酷くぎこちない上原の行動に、 さっきまでの出来事も相まって… 僕の頭はもう、パンク寸前だった。 「…他の奴に、泣かされてんじゃねぇよ…。」 くしゃりと髪を梳いてくる上原。 背中に回されたもう片方の手が…宥めるよう、手探りにも動かされた。 上原の手は震えていて。 それは優しいとは程遠い、 ぎこちないものだったけれど…。 なんとなく上原が、 慰めてくれているのだとは理解出来たから… 少しだけ、張り詰めていた何かが、 緩んだ気がした。 もしかしたらコイツも、僕と同じ… 他人に対し、不器用な人種…なのかもしれない。 僕のお節介ながらの好意を、 冷たく振り払い、陥れたのは上原だったが… それも今なら、 性格故に、素直になれなかった上原なりの、 誤った“好意”だったのかも…。 劇的に変貌を遂げた、上原の優しさに… 今の僕は縋りつくしかなくて。 煙草と香水の香るシャツを弱々しく握り締め、 つい先ほどの…芝崎との遣り取りを、 僕は無意識にも語り始めた。

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