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無我夢中で、走る。 何処でもいいから、なるべく遠くへ。 偶然も必然にもぶち当たらないような、 独りの世界なら何処へでも────… 「待てって、水島…!!」 必死で走った筈なのに。 呆気なく上原に追い付かれ、腕を掴まれてしまう。 「うっ…くッ……!」 涙が溢れて止まらない。 例え道行く人の視線に晒されようとも… 今の僕では、どうにもならなかった。 「チッ……こっちだ…。」 そんな野次馬をひと睨みで一蹴し…。 泣きじゃくる僕の腕を、強引に掴んで歩き出す上原。 「ここなら…」 抵抗する気力も無く連れてこられたのは、 人目につかない小さな森林公園で。 木々が囲むその場所は、天気も災いして薄暗く… 僕ら以外の人影は見られなかった。 「うっ…ぅ……」 「水島…」 嗚咽を漏らし、 悲しみに暮れる僕の身体ごと包み込まれ。 僕より背の高い上原が、今は更に大きいよう感じる。 「…もう、忘れちまえばいい。」 あやすように、諭す上原。 着崩した上原のカッターシャツには、僕が零す涙がポタポタと広がり…いくつもの染みを作っていた。 「…アイツの事、まだ好きなのか…?」 「え…?」 何の事だか解らなくて、上原を見上げるものの…。 涙とレンズで視界がぼやけてしまい。 彼の真意を読み取る事が出来なかった。 上原は更にきつく僕を抱き締め、肩に顔を埋めてくる。 巷では悪名高い不良で。 生徒はおろか…大人までがビビってしまうような奴なのに。 今はまるで捨て猫みたいに背を丸め、 微かに震えてるみたいだった。 「俺じゃ、ダメなのか…?」 「うえ、はら…?」 弾かれ顔を上げれば、切なげに問う上原。 つり目の端正な顔立ちが、今は苦痛に歪められて。 縋りつくよう肩を掴まれた。 「アイツはっ…散々お前を煽っておいて、前の女が現れた途端、逃げてったんだろ!?それでもお前は芝崎を────」 …────選ぶのか、と。 上原の悲痛な叫びにも、 僕は答えすら見つからなくて、 喉の奥、声は出ない…。 「俺は、んなことしねぇ!…いつだってお前だけだ。どんな時でも何があっても、絶対傍にいるから…頼むよ…」 どうしようもないほど、惚れちまったんだ───… 言い切った上原の顔が、こちらへと近付いてくる。 反応するより先に、 僕の唇は上原のそれで、 塞がれていた。 「ッ…ンッ……」 木の幹に押さえつけられ、口内に侵入する上原。 それは噛みついてるみたいに乱暴で、なんとも余裕の無いもの。 けれどそこには、例えようもない程の感情が込められていて… 胸を締め付けるような激しさに、 僕の思考はボロボロと剥がれ落ちていった。 「あっ…やめっ…!」 片手で器用にシャツのボタンを外され、 上原の手が胸元を這う。 大きな手が肌を滑る度、そこからゾワリと電流が走り…無意識に身体が仰け反った。 「アイツのとこなんか行かせねぇ…俺の事だけ考えてろよ…。」 “傍にいるのは俺だろ…” あんなに優しかった上原が…狂ったように甘く、囁く。 「いっ…ンッ……!」 首や胸に顔を埋め、舌を滑らせ先で犯し… きつく吸い上げ紅い印を刻み付ける。 まるで自らの所有物に、名を残すように。 いくつもの花を僕の肌へと散らしていった。

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