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目覚めたら、住み慣れた我が家の天井があって。
「綾ちゃんっ…!!」
次には子どもみたいに泣きじゃくる、
母親の心配そうな姿がぼんやりと視界に映り込んだ。
徐々に覚醒する意識で、記憶を辿る。
公園で上原に好きだと言われ、乱暴にもキスをされて…
それから突然現れた芝崎が、上原を殴って…。
ふたりが喧嘩を始めてしまった。
そして…
(町田さん…)
そうだ…倒れた芝崎には、彼女が駆け寄ってきて、
泣きながら…アイツの名前を呼んでたんだ。
全ては自らの曖昧さが引き起こした、過ちなのに。
悔しくて、哀しくて、苦しくて。
何もかもから逃げたしたくなって…
僕は現実逃避とばかりに、
都合良く気を失ってしまったんだ。
「大丈夫?怪我はしてないって聞いたけど…。」
そう小声で告げ部屋の隅に視線をやる母。
釣られて見れば、そこには壁にもたれて眠っているのか…目を閉じた上原の姿があった。
…傷だらけのままで、なんだかとても痛々しい。
「…彼から一通り聞いたわ。綾ちゃんに会いたくなって、たまたま家にいたから良かったんだけど…。そしたら彼…上原君が、グッタリした綾ちゃんを抱えて来るものだから…。」
心配したのよと、涙を浮かべ僕に縋りつく母。
その小刻みに震える手に、僕は自分の手を重ねた。
ふと視界に入った時計の短針は2を指していて。
カーテンの隙間から見えた外も、部屋の中も真っ暗だったから。おそらく、真夜中なのだろう。
「…ゴメン…仕事平気?」
上体を起こし、母の背をポンポンとあやすように擦る。
すると取り乱していた母も、段々と落ち着いてきて。
僕の顔をじっと見つめてきた。
「そんな心配しなくていいの!綾ちゃんが何か悩んでるのは解ってたのに…。ゴメンね、肝心な時にいつも傍にいられなくて…。」
「母さんのせいじゃないよ…だから、泣かないで?」
「でもっ…」
母子家庭であることに、責任を感じているのだろうけれど。
それを僕が不幸だと思ったことは一度もなかったから。
だから母さんは悪くないよと告げたら…母はぎゅっと抱き付いてきた。
しかし母は、上原に事情を聞いたと言ってたけれど…
一体、何処まで…知ってしまったんだろうか?
母は少し取り乱し、泣いてはいるけど。
いつもとそう変わらないみたいだし、告白の事とか、
上原もさすがに詳しくは話してないのかなと…
思っていたんだけど。
「色々あったのねぇ。綾ちゃん可愛い癖に全然っ自覚が足りないから…。最初は男子校に行かせるのも不安だったのよ?」
「まさかこんなに男の子にモテちゃうだなんて…。パパに似て純粋だから、いっぱいいっぱい悩んだのね…。」
「…………」
…どうやら、上原は全て話してしまったらしい。
それこそ自らの気持ちも、芝崎の事も…相手が男だと言う事実も全部、バレている。
けどやっぱり、母はいつもと変わらないから。
敵わないな…と素直にそう思えた。
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