40 / 67

39

僕がやっとのことで辿り着いた気持ち。 それを初めて言葉に紡いだ時。 「…知ってる…。」 意外にも上原は全てを見透かしていたように、 あっさりとそう返してきた。 「えっ…?」 僕の肩に手を乗せ、目を合わせれば。 上原は辛そうに苦笑いを作る。 「たくっ…今更なんだよ…。ホント鈍すぎだろ、お前。」 からかうような物言いは、きっと彼の優しさ。 「はぁ…クソッ…。こんな事なら下手な意地張らねえで、速攻告っとけば良かったな…。」 なぁ、と囁く上原。 「もし、」 (芝崎じゃなくて、俺が先に告白してたら───…) 「いや、何でもねぇ…。俺はもう振られてんだもんな…。」 言いかけた言葉を飲み込む上原は…。 何かを振り払うように首を振ると、傷だらけの手で僕の頭を優しく撫でてくる。 それはまるで、戻らない過去を惜しむような… 後悔する自分と決別するかのように。 「…すまな、い…。」 何度謝っても、償いきれないのに。 「いいって、もうあやまんなよ…。」 それすらお前にとっては、苦痛になるんだな…。 「アイツんとこ、行くのか…?」 寂しそうに尋ねる上原。 肩に乗せた手にぐっと力が籠もる。 少し視線を落とし、僕はゆっくりと首を横に振った。 「…行かない。」 …本音は、行けない。 今更こんな気持ちを掲げて求めても… 町田さんの事で悩んでいるアイツを、 余計、苦しめるだけだから。 ここまで誰かに愛され、まさか自分から他人を求めるだなんて…有り得ないと決め付けてきたけど。 誰かに依存するって事はとてつもなく苦しくて。 誰かを傷付ける上で成り立っているような、 残酷で…それでも欲しくなる、甘いお菓子みたいだなとも思うのだけれど…。 「決めたんだ、もう。」 「俺じゃダメなのか?…俺は構わない…例え芝崎の代わりでも何でも、お前の傍に居られるならっ…───」 嘘。 平気な訳が、ないだろう? お前は強いから、 涙なんて一度も流さなかったけど。 いつだって、内では泣いてたんじゃないか…。 「そんな事、しない…。お前を傷付けるからとか、そんな綺麗事じゃなくてっ…」 単純に、僕が耐えられないだけなんだ…。 「それでも…俺は傍にいるからな。お前がアイツんとこ行かねえなら、例え手に入らなくても。傍に…いる。」 あわよくば、でも縋りつきたい。 隙あらば、弱ってるお前の一番になりたい。 惜しみない愛情で、罪深い僕を。 やっぱり上原も、芝崎も… とことん僕を甘やかすんだ。 「バカだな、お前も…。」 素直じゃない僕は、 毒を吐いてでしか何も言えないけど。 「あ?仕方ねぇだろ?」 “惚れちまったんだから” さらりと言ってのけるお前は、 実は相当な男前だったんだなとか… だから。 僕は母だけでなく彼にも敵わないなと、悟るのだ。

ともだちにシェアしよう!