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『また諦めるの!?何にもしないで…芝崎君は大好きなものを、そんな簡単に捨ててしまうの?』
やりたいことなら、またゼロから始めればいい。
それが例え前より上手くはいかなかったとしても。
追いかけたいと思うのならば、
何も考えず、突っ走ればいい。
ひたすら野球に打ち込んでた頃のように、
ただガムシャラに。
「…芝崎君、とっても驚いてました。まさか私なんかに説教されて…殴られるなんて思いも寄らなかっただろうから。」
でもそれは、無駄じゃなかった。
今ならあの時してあげられなかった事を、
手を差し伸べてあげることが、
出来たんじゃないかって…。
町田さんに諭された後…
吹っ切れたよう笑顔を見せ、駆け出した芝崎。
痛めた筈の足で、あっという間に見えなくなって。
やっと追い付いたと思ったら、
傷だらけでボロボロになってしまっていて…。
「…あんな感情的な芝崎君、初めて見ました。喧嘩どころか、普段怒る事だって珍しかったのに…」
確かに、あの時の芝崎には驚かされた。
町田さんが言うように、普段の芝崎はとても温厚な印象だったから…。
「けどそれだけ、水島さんの事が特別なんだなって思ったら…。羨ましいなって…ちょっとだけ、嫉妬しちゃいました。」
私では彼の心を癒す事は叶わなかったから、と…。
白く小さな花のように、凛として笑う町田さん。
僕みたいなのが、こんなに素敵な子に羨ましいとか言われると…何だかとても擽ったくて仕方なかった。
「目を覚ました芝崎君に私、改めて告白したんです。…解ってたけど、ちゃんと言っておきたくて。それから全部、芝崎君から聞きました…。」
芝崎が僕に告白した事。
町田さんと再会して、それを無かったことにした事。
上原も自分と同じ想いを抱え、
それで喧嘩になってしまった事。
それから…
「芝崎君はまだ水島さんの事が好きなんです。無かった事に…なんて言ってるけど、本当は何も捨て切れていない…。」
どうして今更そんな事を、僕に教えるんだろう?
「…水島さんは今、誰を想っているんですか?」
どうしてそんなことを、聞く必要あるのだろうか?
捨てると決めた想いなど…。
「良かったら…本当の気持ち、教えてくれませんか?私、知りたいんです。」
こんなに小さくて儚げな印象だったのに。
町田さんは、なんて強かな女性なんだろう。
今なら芝崎が彼女を好きになった理由が…
良く解る気がした。
だからもう、隠せないんだ。
「…好きだ。僕も、芝崎が、好きなんだ…。」
流石に涙は堪えたけど、
きっと顔には出てしまっただろう。
「…ありがとうございます。私なんかに、話してくれて…。」
晴れ晴れとした表情で涙を拭い、席を立つ町田さん。
深くお辞儀をし背を向け、
少し進んだ所でまた振り返り彼女は告げる。
「どうか幸せになって下さい。それが芝崎君の願いでもあるから…。」
“彼を救ってあげて下さい…”
そう微笑んで、彼女はもう一度頭を下げると、
図書室を去って行った。
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