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夢…──────じゃない。 僕の背にある懐かしい温もり。 耳を掠めるのは、心地良い低音。 それから、 ふわりと香る太陽の匂い… 例え姿が見えなくても解ってしまうから、 僕はかなり溺れてる。 「しば、ざき…」 「うん…。」 鼻につく薬品の匂い。 回された腕を見れば、湿布や包帯が痛々しく巻かれていて…。 あの時の光景が甦り、堪らず胸が締め付けられた。 「怪我、は…?」 「もう、平気。」 ドクン、ドクン… シャツ越しに伝わる、二人分の心音。 まるで初めてキスをした時のようで────… いや、それ以上に今は。 どちらも忙しなく脈を打ち、熱い…。 言いたい事が山ほどあるのに。 いつもの悪い癖が出て、肝心な事が声にならない。 季節はもうすぐ夏になろうとしてるのに、 身体が震えて止まらないし… 散々流した筈の涙も、 さっきからずっと止まらないままだった。 「さっき…町田さん、来た…。」 「…知ってる、電話掛かってきたから…。話、した?」 「ん……」 「…そか…オレもね、今まで上原サンと話してたんだよ。」 「え……?」 思わず振り返れば、 すぐ目の前に芝崎の顔があって。 目が合っても、 今度は前のように逸らされることはなく… 傷だらけの笑顔を、目一杯向けてくれた。 野暮用だとか言っていた上原は、 実は芝崎と会っていたらしい。 「上原サンに…先輩の事が好きなのかって、聞かれたんだ。」 芝崎は迷うことなく、好きだと答えたという。 「ならもう一度、告白し直せって言われたから…」 今度はすぐにイエスだとは、応えられなかった。 自ら理不尽に白紙にしてしまったものを、 蒸し返すだなんて…… だからと言って気持ちは変わらないから、 はっきり嫌だとも言い切れないし…。 「そしたら上原サン、オレに頭下げて言うんだ…。」 『水島はお前が好きなんだ…。俺じゃ、ダメなんだよ…。』 傍にいるだけなら誰にでも出来る。 けど、互いに心交わる事など無くて。 『お前の為にアイツは泣いてる。このままだとずっと…そういう奴だから、すぐ壊れちまいそうで───…』 そんなの耐えられねぇんだよ… 『頼むから、アイツを…』 助けてやってくれないか────… 上原も町田さんも、 僕と芝崎を同じくらい大切に想ってくれているから。 手が届くのに、報われない。 自分では支えになれない。 そんな状況が歯痒くて…仕方なかったに違いない。 「…怖かったんだ、野球の事も先輩の事も。自信無くして、ひとりでバカみたく思い詰めて…。」 「町田の時みたいに、いつか先輩までオレの前からいなくなっちまうんじゃないかって…。」 「…今更だって解ってる。町田を言い訳にして、結局先輩を傷つけちゃったし。これじゃあ町田にだって失礼だよね…。」 神様、一度でいいから。 今だけ声を下さい。 素直なままの、奥底に仕舞い込んだ想いを、 今こそ、ちゃんと伝えたいから…

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