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side. kentarou
「はふ~…」
扇風機全開で当たって髪はもう乾いたのに。
やけに火照った身体は、夏の暑さや風呂上がりの所為なんかじゃなかった。
もう何度も訪れた先輩の部屋も…。
今日ばかりはまるで異空間にいるみたいで、
メチャクチャ落ち着かない。
加えて心臓は、先輩からの初発信メッセージを見た時から…バクバク鳴りっぱなしで。
今にも爆発してしまいそうな勢いだった。
“泊まりにこないか”
疑問符も何にもない、シンプル過ぎる文面。
初めて先輩の方から送られてきた、メッセージの内容がソレだなんて…すぐには信じられなくて。
何度も何度も送信者の名前を確認したくらいだ。
正直言ってオレの欲求不満は、もう限界だった。
先輩を好きになった時点で、ある程度覚悟してたつもりだけど…。
やっぱりしんどくって。
男同士でもセックスが可能なのは、大体調べたから…
やり方は知ってたけど。
だからこそ、先輩に欲情して、
理性が飛びそうになるたんびに。
なけなしのソレで、ギリギリ耐え抜いてきたんだ。
言うまでもなく、先輩は恋愛初心者。
反応を見れば歴然。
頭はメチャクチャ良い癖に、
そういう知識は小学生並みだし…。
まさに絵に描いた純潔。
…だからこそ、大事にしたいと思う。
汚してしまうのはカンタン。
オレの手で、オレだけを知って。
オレに溺れてくれれば、どんなに幸せだろう。
けど、現実は不安でいっぱい。
流石の先輩も、男女間の営み位は知っていると思う。
けど、男同士になると話は別。
元より交わる為に存在する女性のソレは、男には無くって。
変わりに先輩には、あり得ない場所で、
オレを受け入れてもらわなくちゃ、ならないんだから…。
いきなりそんなことしてしまったら、抵抗ありまくりだろうし…
真剣に逆も考えてみたけども。
それはちょっと絵的にあり得ないってか…無理っていうか…
いや、先輩が望むならオレは────…イヤイヤ…。
とっ…とにかく、“普通”では繋がれないから。
叶うならいずれ、とは思うけど。
無理なら、一生このままでもいいかななんて…
そりゃ浅はかな考えな訳で。
成長期&発情期な身体は嘘を吐けず。
ことあるごとに反応しては、オレを戒めていた。
(ダメだ、そんなことあり得ないからっ…鎮まれムスコ!!)
先輩に下心なんてあるわけが無い。
これはただのお泊まりで。
今はそれで、充分じゃないか。
先輩の手料理食べて────風呂はまあ当然ながら、
結構ガチめに拒絶されちゃったけど…
一緒に寝床について。
肩並べてたくさん話し込んでさ。
いつの間にか朝になってれば────…
いいんだけどなぁ~…。
「はぁ~ヤバいぃ、先輩の匂いする…。」
ここは駄目だ。脳みそが沸騰してきた。
もうムラムラして敵わない。
オレの入った風呂に、先輩も浸かってるってのを想像しただけで…オカズになりそうなのに。
…しかも風呂待ちとか?
このラブホみたいな展開に、期待しない男の方が終わってるっての!!
あ~いかんいかん、無心にならねば…。
とりあえず気を紛らわせる為に、先輩の部屋をキョロキョロ。
基本シンプル。青基調の家具やらカーテンとかは、
およそ先輩のイメージ通りで。
本棚には解読不可な分厚い本がギッシリ。
マンガのまの字もない。
むしろひらがな少ないし…と、ここまでは普通なんだけども。
(クマさん、かわい…)
サイドボードには、ピンクとブルーのペアのテディベアがちょこんと寄り添って座ってるし。
隣りにはガラス細工の、乙女ちっくな写真立て。
中には幼少期の無表情な先輩を挟み、先輩のママさんと…パパさんらしき人が頬を寄せ、幸せそうに写ってて。
なんだか微笑ましい一枚。
他にも…置き時計とか小物なんかが、アンバランスな具合で至る所に鎮座していた。
多分コレらのファンシーな雑貨はきっと────…
そこでガチャリと部屋のドアが開き、
オレは一気に現実へと引き戻されるのだった。
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