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side.Tamotsu “学校の屋上で待ってる” 夜明け前に目覚めたら、 キミはもう僕の前から消えていて。 夢を見たんだと…思った。 あんな…欲に塗れたハズなのに。 嘘みたいに身体は綺麗で、僕はひとりきりだったし。 けれど、 “今日は帰る” 机に託された簡素なメモの、キミの筆跡。 鏡に写った首筋の赤い証拠。 それから… 今でも身体に残ってる、 キミと繋がった後の、 確かな感覚…。 「ふえっ……」 もしかしたら、傍にいてくれるんじゃないかって、 自惚れてた。 『最後』を口にして誘ったのは、 紛れもなく僕自身だったけど… 抱かれてる時はとても幸せで。 まるでそこに愛が存在するじゃないかって、錯覚しちゃうくらい… キミは優しかったから。 けどもう、おしまいみたいだ。 僕が、終わらせた。 だからキミはここにいない、 もう友達ですら、ない… どうかしてたのは僕。 ワガママを言って欲しがったのも。 最後までキミは優しくて。 僕の手を振り払うことはなくて。 抱いてとお願いしたら、迷わず受け入れてくれた。 嬉しかったのは…キミが僕に欲情してくれたコト。 女の子でもないし、特別可愛いわけでもない。 綾ちゃんみたいに、男でも惚れ込んでしまうような容姿も魅力も無い…こんな僕にでも、 キミの身体が反応してくれたから。 だけど結局はこの現実。 自分で選んだとはいえ、やっぱり辛いよね… 「ふっ…う、えっ…はらくっ……」 身体中を占める浮遊感。 今もまだキミに抱かれてるみたいに…中が、熱いよ。 繋がってた箇所は、麻痺したようで。 まだソコで繋がってるみたく、ずっとヘンだし。 バカだね…ホント。 ゴメンね、でも、好きなの。 自分から離れられそうになかったから。 今は苦しくて、死んじゃいそうだけど。 きっとこれで、良かったんだ…。 こんなことならいっそ最初から、友達でも何でも無く、 キミに要らないって突き放されてた方が… 楽、だったのかな? 布団を被っても眠れるわけがなくて。 結局、夜通し泣いて… 朝が来た。 鏡を覗いて見た自分の顔は、サイアク。 どのみち、こんな気分じゃ学校なんて行く気にはなれなかったんだけど…。 朝から受信されたメッセージ。 若干震える手で携帯電話を覗いたら… 「ッ………!」 “─────待ってる” 要件だけのシンプルなソレは、 キミからのもの。 どうして? もう全部終わったんじゃないの? キミが何を考えてるのかが解らなくて、 携帯を強く握り締めたまま…僕はその場に泣き崩れた。 カチ…カチ… 時計は止まることなく、時を刻み続ける。 既に16時過ぎ。 夏の終わりの、まだ眩し過ぎる夕暮れが。 間もなく訪れようとしていた。 (もう…) はっきりさせなきゃ、ダメなのかもしれない。 中途半端に身体で断ち切ろうとしたから、いけないんだ…。 僕はベッドから立ち上がり、制服を纏う。 それから洗面所で何度も顔を洗ってから靴を履き、 家を出た。 折れてしまいそうな意志を奮い立たせるため、 僕は空を一度仰ぎみると… キミがいるかも判らない学校へと向かって、 駆け出していた。

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