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第5話 勇介
自宅マンションに帰ってからも、勇介の脳裏から涼一のことはなかなか消えなかった。
訪問看護師の仕事についてはオンとオフをしっかり使い分けてるつもりだ。
カウンセラーとまではいかないまでも、様々な人の心の闇を聞く仕事でもあるから、冷たいようだが家に帰って来てまで引き摺っていると勇介の身がもたない。
なのになぜか涼一のことはその存在を忘れ去ることはできない。
……どこか俺に似てるところがあったからかもしれない。
勇介は一人暮らしの1dkの部屋を見渡す。
ある条件の代わりに手に入れた、かりそめの自由。
訪問看護師として何人もの患者を担当し、一見自立しているように見えるけど、勇介の心の一部は実家の自室にこもったままだ。
そういうところが自分と涼一を重ねるのだと思った。
救えるだろうか? 涼一の心を。
そこまで考えて勇介は軽く首を横に振った。
救うなんておこがましい。俺にできるのはせいぜいあの子の心の負担を軽くしてあげることくらいだろう。
自分の無力さに苛まれながらも、勇介はパソコンを立ち上げた。
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