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第9話 信頼

 勇介は苦笑を引っ込め、まずいな、と思った。  涼一はリスカとODの常習者でどこにでも剃刀や薬が置いてある。この前トイレを貸してもらったらそこにもあったし、部屋中に血の付いた剃刀や薬の袋が転がっている。  どんなことでリスカやODのスイッチが入るか分からないのだ。  せっかくこの頃は止んでいたのに、こんなことでまたされたら自分がいる意味がない。  勇介は居住まいをただすと改めて問うた。 「一体どうすれば機嫌を直してくれるんだ?」  すると涼一は真っ直ぐ勇介の方を見て言う。 「先生も裸になってよ。それでおあいこだろ」  なんともとんでもない申し出に一瞬勇介は返答に困った。  けれど、それで涼一のリスカやODをとめられるならと思う。  分かってる。何でも言いなりになることが看護師の仕事ではないことは。  でも、今までずっと孤独にこの部屋にこもっていた涼一のわがままを今回は聞いてあげたい。 「……分かった」 「えっ?」  自分で言い出しておきながら目を丸くして驚いている涼一の前で勇介は着ている黒のシャツを脱いだ。  露わになる大人の男の上半身、裸。 「ちょっ……先生!?」  慌てふためく涼一に構わず勇介はベルトを外し、ジーンズのジッパーを降ろそうとした。  途端に涼一の声が飛んでくる。 「もういい。先生」  見ると涼一は真っ赤になっている。  勇介は脱いだシャツを再び身に着けると、優しく話しかけた。 「機嫌が直ったなら、何か身に着けて出ておいで」  涼一はバスローブを身に着けおずおずといった様子でバスルームから出て来る。 「……先生みたいなやつ、初めて。なんでそこまでしてくれるんだ?」 「涼一くんが大切だからだよ」  なんとも気障なセリフだったが、本心でもあった。  勇介は訪問看護師という仕事を決してビジネスライクにしているのではない。  いろんなことに傷ついた心を少しでも癒してあげたいから。  まあ、今回、裸にまでなろうとしたのは涼一が同性だったからだけど。これが異性だったらそれこそ大問題だ。 「そんなふうに言われたのも初めて。父さんや母さんにも言われたことないのに」  涼一が勇介のシャツを掴んでポツンと呟く。  胸が痛んだ。同時に涼一の両親に対し、怒りを覚えた。  勇介は涼一のまだ濡れている髪をそっと撫でる。 「僕がいるから。君はもう孤独じゃないよ」 「先生……」  ありがと、と小さく付け加える涼一。また少し涼一との距離が縮んだ気がして嬉しかった。 「服に着替えたら、血圧から図り始めよ……俺は部屋の外に出てるから」  そういい置き、部屋を出ようとする勇介を涼一は引き止める。 「先生にお願いがあるんだけど」 「何かな?」 「ハンバーガーが食べたいんだけど、買って来てくれる?」  ほとんど食事をしない涼一がこんなことを頼んで来るのは勿論初めてのことだ。 「お安い御用だよ」 「先生も一緒に食べてね」 「うん、いいよ。じゃ買いに行ってくるから着替えて待っておいで」 「ん」  照れくさそうな涼一の声を後ろに勇介はハンバーガーを買うべく部屋を出て行った。  

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