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第11話 物語の初まり

 勇介は家へ帰ると机の中を漁り、涼一のことを頼んで来た彼の父親の秘書の名刺を探し出した。  そして名刺に記された電話番号に電話をかけ社長に取り次いで欲しいと願い出た。案の定即答で断られたが、俺の本当の身分を言うと慌てて取り次いだ。  電話に出た涼一の父親は、最初は少し訝しんでいたが、やがて丁寧に応じ始める。  後日会う約束を取り付け電話を切り、今度は涼一にかける。 「涼一くん、今度の日曜日、君の家へ行くから」 『え? 訪問看護の日じゃないよね?』  電話の向こうでちょっぴり不思議がってる涼一に勇介は優しく言った。 「大切な話があるんだ。涼一くんはスーツを持ってる?」 『持ってるけど』 「日曜日はスーツを着ておいで。君のことでご両親に大切な話があるから」 『大切な話って、何?』 「今はまだ内緒」 『え~、教えてよ』  ねだる涼一に勇介はゆったりと一言だけ答えた。 「君を今いる場所から出してあげる」 『え?』  戸惑いも露わな声を出す涼一をそのままに勇介は電話を切った。  小さな籠の中にいる涼一。  俺はそこから君を出してあげたい。  褒められたやり方じゃないかもしれないけど、そこにいる限り君は自分を傷つけるのをやめられないだろうから。  俺が自分の立場を利用して、君を一歩外に連れ出す。  強引な手を使って。  

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