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第12話 政略結婚

 日曜日。  久しぶりに着るスーツで勇介は涼一の家へと向かった。  普段、訪問看護師として働くときはトレーナーやパーカー姿なので、スーツは窮屈だ。  涼一もまた見慣れぬスーツ姿で勇介を迎えてくれた。  黒のスーツは色白の涼一によく似合っていて妖艶さを醸し出している。  しかし。 「……またやったのか?」  涼一の左手首には真新しいリスカの跡があった。 「だって……」  唇を尖らせる涼一。勇介が再び口を開こうとしたとき部屋の扉が開き、涼一の父親と思われる男性が秘書を伴い入って来た。 「初めまして谷川さん、栗山です」  父親は慇懃に挨拶をして来る。 「どうも初めまして。今日は時間を取らせて申し訳ありません」 「いえいえ、いいんですよ。しかし谷川財閥の御曹司が息子の看護師をしているとは思ってもいませんでした」 「谷川財閥?」  間に涼一の驚いた声が入るが構わず続ける。 「早速ですが本題に入らせていただいてよろしいでしょうか?」 「どうぞ、谷川さん」  勇介はスウ……と息を吸ってからその言葉を口にした。 「涼一くんと結婚させてください」 「は?」 「え?」 「な?」  父親、秘書、涼一がそれぞれ声を上げる。 「涼一は男ですよ!?」  酷く狼狽した声で父親が分かり切ったことを言う。 「分かっています。だから涼一くんが私の養子になると言う形を取って貰おうと思っています」 「ですが……」 「よく考えてください、栗山社長。私と涼一くんが結婚するとお互いの会社に大きな利益を与えると言うことを。あ、うちの親は既に説得済みです。本来なら一緒に来るべきなのですが今日はどうしても抜けられない仕事があるとかで、申し訳ありません」 「いや、そんなことは構わないのですが、……本気なんですね? 本気でうちの息子と結婚を」  今父親の頭の中では勇介と涼一が『結婚』することで生まれる大きなメリットについて計算が働いていることだろう。  やがて大きくうなずくと。 「分かりました。涼一をあなたに差し上げましょう」 「ありがとうございます」 「これで私の会社も谷川さんの会社もより大きく強固なものになるでしょうな」  満足そうにほくそ笑む。 「ええ」 「ちょっと待ってよ!」  涼一が突然大声を上げた。 「一体どういうことだよ!? 俺と先生がけ、結婚なんて……」 「うるさい、失礼だぞ、涼一。それでは谷川さん、これから我が社の発展に貢献ください」 「こちらこそ。……では涼一くんを連れて行ってよろしいでしょうか?」 「どうぞ、どうぞ」  勇介は内心父親に嫌悪感を覚えながらも一礼すると、次に鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている涼一に向かって優しく微笑みかけた。 「……というわけで、涼一くん、君は今日から僕の妻だよ」

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