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第17話 新婚初夜
次の瞬間、涼一はものすごい勢いでソファの端に逃げて行った。
「ななな何すんだよ!? あんた、そんな優しそうな顔してるのに変態っ」
……変態……前にも言われた気がする。まさか自分がそんなふうに言われるなんて心外だ。
「ひどい言い方だな。新妻の頬にキスをしただけじゃないか」
「充分変態だっ」
「はあ……」
勇介は小さく溜息をついた。」
どうやら涼一は色恋に関しては超が付くほど奥手なようだ。
ソファの端っこでこちらを警戒している姿は正に毛を逆立てている猫のようだった。
「涼一くんってさ、好きな女の子とかいないの?」
恋人はいないと以前言ってたけど。
「いないよ」
「女の子、嫌いなのかい?」
「めんどくさい」
「勿体ない。絶対モテるのに」
「うるさい。大きなお世話だ」
「人を好きになれば、自然と自分も大切にすることができるようになってくるよ?」
「…………そんな説教聞きたくない」
勇介の言葉に涼一はムッとして言った。その表情はどこか泣きそうでもあり……もしここに剃刀があればきっと涼一はリスカをしていたことだろう。
俺の一言一言に大きく左右される涼一。
難しい、と思う。同時に自分自身が情けなくも思う。
もう何年間も訪問看護師をしているのに、たった一人の心さえ、満足に癒すことができない。
何とも気まずい沈黙のまま時間だけが過ぎて行き、真夜中と言える時になった。
再び静寂を破ったのは勇介の方。
「もう寝ようか」
その言葉にビクッと体を震わせる涼一。
「いい。まだ寝ない。俺、スマホでゲームしてるから」
「だーめ。もう寝なきゃ。ほら、おいで」
勇介が言うと、恐る恐る距離を縮めて来る。
「ベッド、セミダブルだから、ちょっと狭いかもしれないけど」
「ち、ちょっと待て。一緒に寝るって言うのか?」
涼一がびっくりしたように聞いて来た。
「このソファじゃ狭すぎるだろ。かと言って床で寝るわけにもいかないし。まだベッドの方が手足伸ばせるよ。それでもどうしても涼一くんが嫌なら僕はソファで寝るけど」
「先生のベッドじゃないか。い、いいよ。そんなに言うなら一緒に寝てやっても」
真っ赤になりながら言う涼一がほんと可愛い。
……これがツンデレってやつか。
勇介がそんなことを思いながらベッドのシーツをめくってやると、恐々と言った様子で涼一はベッドに入った。
続いて勇介が入ると、涼一は慌てて背を向ける。
「何も、しないから、安心してお休み」
体を強張らせる涼一の耳元で優しく囁くとふるりと体を震わせた。
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