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第18話 涙

 それからどれくらいの時間がたっただろうか。  ベッドの隅っこで体を強張らせて小さくなっていた涼一は静かな寝息を立て始めた。  やれやれようやく眠ったか。  勇介は手を伸ばして涼一のサラサラした髪にそっと触れる。  しばらくそのまま触り心地の良い感触を楽しんでから勇介はそっと体を起こした。  涼一の寝顔を覗き込む。  ……あどけない顔して。眠ってたら何の悩みも闇もなさそうなのに。  その手首には無数のリスカの痕。  俺と暮らすことで、少しでも涼一の心の闇に明かりをともせたら。  勇介はそう強く思う。その反面。  どうして涼一にはここまでしてあげるのだろう。  いくら患者の境遇が悲惨でも、例え自分自身の境遇と似ていたとしても、訪問看護師が関わってもいい範囲を明らかに越えている。  政略結婚……妻という立場になった涼一。こうして狭い一つのベッドで眠っている二人。 「でも、どうしても涼一を救ってあげたかったんだ……」  言い訳のように小さく呟いたとき涼一が小さく身じろいだ。 「……ん……」 「あ、ごめん。起こしてしまったかい?」 「…………」  涼一は薄く目を開けていたがまだ夢うつつといった感じだ。  その赤ちゃんのような唇が動いて言葉を紡ぐ。 「……寂しい……」  そして黒目勝ちの瞳から滑らかな頬へと涙が伝った。 「涼一くん……」  そのまま瞳は閉じられ、涼一はまた眠りの世界へと戻ってしまう。だが、その寝顔は悪夢でも見ているかのように苦し気で。  涼一の孤独が胸に痛かった。  勇介は腕を伸ばすと涼一の華奢な体を後ろから強く抱きしめる。  さっきまでの葛藤が嘘のように消え、涼一だけは救ってあげたいと思う。 「大丈夫……俺がいるから。寂しくないから……」  耳元で呪文のように囁き、抱きしめる腕に力を込める。  勇介の囁きに、涼一の寝顔が穏やかになった気がしたのは単なる都合のいいい思い込みだったのか。  それとも。                

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