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第29話 快楽と切なさと
「ああっ……やだっ……だめっ……」
涼一の唇から零れるのは完全に快楽一色に染まった声。
「……ここ……気持ちいい?」
勇介は指を二本に増やして涼一の前立腺をグッグッと刺激し続ける。
「もうやっ……やだ……やめ……先生っ……あっ……ああっ」
すると、泣きじゃくりながら涼一は勇介の手の中へと射精した。
「ふ……あ……」
溜息のような力の抜けた声とともにゆっくりとシーツの海に沈み込み、そのまま涼一は意識を失ったのだった。
勇介は涼一の体を清めてやり、シーツにくるんでやった。
「……ちょっとやりすぎちゃったかな……」
涙の跡が残る綺麗な顔を見下ろしながら、一人呟く。
そして、自分の下半身を見てため息をついた。
勇介のそこはすっかり欲情していたのだ。
……まさか涼一の痴態を見てこんなになるなんて……。
半分も年下の相手だぞ。なのに。
しかし実際反応してしまったのは仕方がない。
勇介はもう一度溜息をつくとトイレに行き、勃起したそれを処理してから、シャワーを浴びるため浴室へと向かったのだった。
勇介が風呂から出たとき、涼一は目を覚ましていた。
目と目が合うと涼一は無言でそっぽを向いた。顔は真っ赤だ。
てっきりまた罵声を浴びせられると思っていたのでなんだか少し拍子抜けしたが、優しく声をかける。
「……起きてたんだね」
「…………お腹空いた」
唐突に空腹を訴えて来る。
「……ケーキならあるけど。それとも今から何か作ろうか?」
「ケーキ、食べる」
そっぽを向いたまま答える涼一。
「それじゃこっちおいで」
勇介が言うとようやく涼一はこちらを向いたが、耳まで真っ赤だった。
そんな彼を可愛く思いながら、さっきの行為で少し足元がおぼつかない涼一の手を取りダイニングのテーブルに座らせる。
「……なんで、ケーキ潰れてるの?」
冷蔵庫から出されたケーキは見事にひしゃげている。
「涼一くんが倒れてると思って焦って放り出したからだよ。……チョコとイチゴのと、どっちがいい」
「どっちも食べたい、だから半分こしよ」
言うとフォークでそれぞれのケーキを半分に切った。
……こういうところ俺のツボにはまってすごく可愛いんだよな。
勇介はそんなふうに思いながら、美味しそうにケーキを頬張る涼一を見つめた。
さっきした行為、少しやりすぎたかもしれないが勇介は自分自身を否定する気も謝る気もなかった。
深い心の闇を抱えている涼一には快楽で全てを忘れる瞬間も必要だと思ったから。
勿論あんなことをするのは涼一にだけだ。彼は勇介の『妻』だし、他のどの患者にも持ってない感情を抱いている。
……俺は涼一のこと、愛し始めてる。
確かにそういう気持ちを感じていた。
目の前で二つ目のケーキを食べる涼一を見ながら切なさを覚える勇介。
だって、いつか涼一は勇介の傍から飛び立ってしまうだろうから――――。
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