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第33話 もう一つの片思い?

SIDE.RYOUICHI  次に涼一が目を覚ましたとき、もう陽は高く昇っており、勇介はいなかった。  きっと仕事へ行ったのだろう。  そういえば薄っすらと記憶に残っている。勇介が耳元で『仕事へ行ってくるから。ゆっくり眠っておいで』と囁き、頬へキスをしてくれたこと。  その優しい声を思い出すと胸がきゅんと鳴いた。  彼が仕事へ出かけて行っててよかったと思う。  だって、昨夜散々淫らな行為をしてあられもない姿を勇介に見せたから。  キスさえ知らなかったのに、セックスまでしてしまった……。  そして、そのセックスは想像を絶するほどに気持ちよくてたまらなかったのだ。  頬が熱い。  ……でも久しぶりにあの夢を見なかったな。真っ暗闇の中で独りでいる夢。  悲しくて寂しい夢を見ることさえせずに熟睡したのはいったいいつぶりだろう。  シーツに包まり、つらつらと考えているうちに、ふと気づいた。自分の体が綺麗にされパジャマも新しいもの――今度はパンダ柄だ――に変えられていることに。  今更ながら勇介が後始末をしてくれたことに対して恥ずかしさが生じる。  恥ずかしさにいたたまれなくなってベッドから降りて、ふらつく足でダイニングへと行くと、テーブルの上に勇介が作っただろうチャーハンが乗っていた。  一緒にメモも置かれており、そこには。 『起きたら食べてください。冷蔵庫にスープもあるので、電子レンジで温めてね。勇介』  ――と、達筆な文字で。  先生は優しい。強引なとこもあるけど、それさえ優しさ故だと思う。  今まで何度も何度も思ったけど、女性にすごくモテるだろう。同性にだってモテるかもしれない……。  そんな先生と夫婦でいられる自分はきっと幸せ者なんだろう。 「……でも政略結婚だもんな……」  やはりそこが引っかかる。同性だということはこの際だからあっちに置いといても。  政略結婚という言葉の響きからは、愛のない結婚という事実がつきまとう。  それでも先生は俺を抱いてくれた……。  涼一にとって、セックスという行為は恋人同士や夫婦がするものだという認識が当然だがある。  ……ということは、先生は俺のことをそういう意味で好きでいてくれるってこと?  でも。  勇介は涼一の倍の年齢だ。決して遊び人には見えないが、それでも自分のように経験が皆無だということは決してありえないし、それに行為の仕方がスムーズで、涼一を何回もイカせた。 「う~~」  勇介との仲が昨夜のセックスにより縮まったような気がしてもいいはずなのに、涼一の心は何故かモヤモヤしていた。  モヤモヤの正体が分からずに苛々して、リスカがしたくてたまらない。  しかし、リスカができるようなものはこの部屋にはない。  まだ流石に一人で外に出るのも怖いし。  頭を抱えながら部屋の中を見渡して、その視線が冷蔵庫でとまる。  ……先生、今日も疲れて帰って来るんだろうな。何か俺にでも作れる料理を作ってあげようか。  そう思い立った涼一は勇介の作ってくれた、美味しいチャーハンとスープをかっ込み、 「俺にだって簡単な料理くらい作れるよな」  と勇みこんだ。

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