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第34話 初めての料理

  さてそんなふうに勇んで冷蔵庫を開けて見て涼一は拍子抜けした。   ほとんど何も入っていない。   あるのはビールと何種類かの調味料と卵だけだ。 「これじゃ大した料理できないじゃないか」  むくれるが、食材がたくさんあったとしても大した料理はできないのは同じことなのだが。  涼一はネットで卵料理のレシピを調べる。  だし巻き卵、プレーンオムレツ、スクランブルエッグ……。  どれも簡単そうに書いてあるが、料理など中学の頃の家庭科の授業でしかしたことない涼一には、どれもハードルが高いように思えた。  ネットを見ていたスマホをベッドに放り投げると、結局涼一は最も基本的な目玉焼きを作ることにした。  これなら簡単にできる……そう思ったのがしかし甘かった。  ボールに卵を割り入れるときに殻が混ざって、それを取るのにすごく時間がかかった。 「あー、もう」  癇癪を起しながらも、勇介の喜ぶ顔が見たくて、涼一は頑張った。  結局出来上がった目玉焼きは少々焦げ気味のものだったが、なんとか形にはなったので良しとする。 「あとはご飯を炊かなきゃ」  勇介がいつもしているようにお米を洗い、適当に水を入れ、炊飯器のスイッチを入れる。  自分が誰かのために料理をする日が来るなんて思ってもみなかった。  でも、勇介を思い料理を作ることは涼一に甘美な思いを与えたのだった。  ダイニングのテーブルに目玉焼きを置き、塩、しょうゆ、ソース、ポン酢、勇介がどの調味料をかけても大丈夫なようにズラッと並べて置いた。  そのうちにご飯が炊けたので見てみると、柔らかめを通り越してお粥状態になっていた。見事に水加減を間違えたようだ。 「マジかよ……?」  涼一が落ち込んでいると、ガチャガチャと玄関の鍵が開く音がして、勇介が帰って来た。 「ただいま、涼一くん、今日は最後の患者がキャンセルになったんで早く帰れたから、なんか美味しいもの作ってあげ――」  言いながら部屋に入って来た勇介はダイニングのテーブルに並んだ目玉焼きと調味料たちを見て言葉が止まる。  そして、切れ長の目を見開いて涼一に問いかけた。 「これ、涼一くんが用意してくれたの?」 「……そうだけど。ご飯失敗しちゃった。お粥みたいになって――」  言いかけた言葉を今度は涼一が遮られる。 「ありがとう、すごく嬉しいよ。こんなかわいいことされたら、先に涼一くんを食べたくなっちゃう」 「な、何言って」  この頃、涼一にも分かってきたことがある。  勇介は見た目に似合わずエッチだ。男なら誰だってエッチだろうと言われても、以前、訪問看護師としてだけ付き合ってた時はこんなふうなこと言ったりするイメージは全然なかった。 「でも涼一くんが俺のために初めて作ってくれた料理、冷めないうちに食べなきゃね。そのあとでゆっくり涼一くんを食べさせてもらうよ」  にっこり意味深に笑ったあと、手を洗い、勇介はダイニングのテーブルについた。  

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