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第35話 ダンナさまのお帰り

SIDE.YUUSUKE  スーパーで食材を買ってマンションの部屋に帰ってみると、驚いたことに涼一が夕食らしきものを作って待っていた。  勇介がテーブルにつくと、涼一がご飯をよそってくれる。そのご飯は涼一が言うようにお粥状態である。水加減を間違えたのだろうが、料理がほぼ初心者であろう涼一にはこれが精いっぱいだったのだろう。  おかずも目玉焼き一つだけ。でも勇介は涼一が愛しくてたまらなかった。  ……俺のために一生懸命料理作ってくれるなんて、すごく可愛くてたまらない。  その見た目の愛らしさも相まって新妻感がすごい。 「いただきます」  勇介は手を合わせてから、目玉焼きを口に運んだ。調味料はしょうゆ。 「…………」 「美味しい? 先生?」 「……うん。美味しい」  味は美味しかった、というかしょうゆの味だったし、焼き具合も勇介好みの固焼き目玉焼き(勇介は半熟が苦手である)だったが、なにぶん卵の殻がたくさん残っている。  それでもキラキラ目を輝かせて勇介の返事を待っている涼一を見ているとそんなことは言えなくて。 「じゃ、俺の分も食べていいよ」  気を良くしたのか涼一が自分の分の目玉焼きも差し出して来る。 「ありがとう。貰うよ」  この笑顔のためなら卵の殻ぐらいなんてことない。  勇介はじゃりじゃり言わせながら目玉焼きを咀嚼し、綺麗に平らげた。勿論お粥状のご飯もおかわりをした。 「俺が涼一くんの分の目玉焼きを食べちゃったから、お腹空いてるだろ? 今度は俺が涼一くんのために料理作ってあげる」 「何作ってくれるの?」 「んー、すき焼き」 「えっ?」  買って来た食材を見ながら勇介が言うと、今まで元気だった涼一がみるみるしぼんだ。 「どうしたの? 涼一くん」 「だって、先生が俺の下手な目玉焼きだけで、俺一人がすき焼き食べるなんて……」 「何言ってるの? 俺は自分で作るすき焼きより、涼一くんが作ってくれた目玉焼きの方がいいよ。誰かに作ってもらうご飯の方が美味しいんだよね」 「先生、よく彼女に作って貰ったの?」  心なしか涼一が落ち込んだように聞いて来る。 「いや。訪問看護師の仕事が忙しくて、しばらく彼女いなかったから、もっぱら自分で作って自分一人で食べて、あれ結構虚しいんだよね」 「そ、そうなんだ」  涼一の口元が綻ぶ。  なんて可愛いんだ……。  勇介がすき焼きを作ってる間中、涼一はその作り方を見ていた。 「なに? 涼一くん、今度はすき焼き作ってくれるの? でもだめだよ。涼一くんに包丁は握らせられない」 「……包丁でリスカはしないよ」  涼一はぷうと頬を膨らませる。 「そうじゃなくて、まだ包丁持つのは危ないから。今度俺が一緒にいるとき、教えてあげるよ。包丁の使い方」 「ん」 「でも、まあ一応言っておくけど、包丁でリスカしないでね」 「だからしないって」 「分かった、信じるよ。……さ、できた」  目玉焼きを二個食べて、結構お腹はいっぱいだったが、勇介も一緒にすき焼きをつついた。  涼一が目玉焼きを作り上げるまでの話を聞き、ご飯のお水の分量を教えたり。  今夜、二人は饒舌だった。  涼一が笑うと胸が切なく、でも甘く疼く。長い間忘れていた感情。  勇介は改めて思う……自分がどれだけ涼一を溺愛しているかを。  いつか涼一が『それ』を望んだ時、自分は彼を手放すことができるだろうか?  独り立ちしていく涼一の背中を押してあげる勇気が俺にあるだろうか?  無邪気にはしゃぐ涼一を見ていると愛しさと痛みの両方を感じる勇介だった。  

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