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第38話 捨てられた目玉焼き
SIDE・RYOUICHI
自分で作った目玉焼きを食べて、涼一はひどく落ち込んだ。
昨夜、勇介は『美味しい』と言って食べてくれたけれども、それは彼の優しさで、本当は卵の殻がじゃりじゃり入っていて食べれたものじゃなかった。
「勇介さん、もう目玉焼き食べないで」
今も目の前で勇介は涼一が作った卵の殻が大入りの目玉焼きを美味しそうに食べてくれている。
「なんで? こんなに美味しいのに」
「嘘ばっかり、卵の殻がいっぱい入ってるじゃん」
「それが? 味は好みだし。焼き加減もばっちりだし、卵の殻くらい気にならないよ」
そう言って勇介はふわりと優しく微笑んだ。
女性だったらその笑顔で一発で恋に落ちるようなそれ……どうして勇介さんはいつもそんなに優しいのだろう?
やっぱり俺が勇介さんの患者だから?
だとしたら、俺以外の患者にもそんなに優しいのだろうか?
「もう、勇介さん、そんなの食べなくていいってば!!」
気が昂って癇癪を起こした涼一は勇介が食べている目玉焼きのお皿を取り上げゴミ箱に入れた。
「涼一くん、落ち着いて……!」
自分の分のお皿の目玉焼きも捨てようとしたとき、後ろから勇介に抱きしめられた。
「離せよっ」
「どうしたの? 落ち着いて……ほら……」
勇介は涼一の手からお皿を取り上げると、テーブルに置き、今度は正面から涼一を抱きしめる。
そのまましばらく背中を優しく撫でてくれ、ゆっくりとソファに座らせてくれる。
なぜだろう? 涙が止まらなかった。
「大丈夫かい? 涼一くん?」
優しい勇介の声、だけどその声が今は余計に涙を誘った。
「……じゃない」
「え?」
「大丈夫じゃない。勇介さんが今日全部の仕事を休んで傍にいてくれなければ、俺、リスカするから」
最低だと自分でも思った。これじゃ駄々をこねる幼子と変わらない。
流石の勇介も怒るだろうと思った。
なのに。
「……分かった」
勇介はスマホを取り出すとどこかへ電話をかけた。
「……今日の訪問看護の仕事は全てキャンセルしといてください。……はい、すいません……」
え?
涼一はびっくりして、涙も引っ込んでしまった。
「ゆ、勇介さん? そんなことして大丈夫、なの?」
「大丈夫じゃないだろうね。ドタキャンなんかすれば何件かは切られるかもしれない」
「だったら、どうして?」
「だって、俺が一番大事なのは涼一だから。君を放って、どこにも行けないよ」
優しく微笑んで、勇介は涼一の頭を撫でてくれた。
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