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第39話 狼に豹変

「……先生……」 「あれ? また『先生』呼び? 本当に冷たいな、涼一くんは」 「だって、先生だって、俺以外の患者さんにもそんなに優しいんだろ?」  涼一はどうしても、そこが気になる。自分の知らない勇介の他の患者……その人たちにも優しく微笑み、頭を撫でたりしてあげるのだろうか。 「……あのね、涼一くん、そりゃ俺の仕事は訪問看護師だからね、患者さんには優しくするよ? でもそこから一歩は踏み出さない……っていうか踏み出してはいけないはずなんだ」  そこで勇介はいったん言葉を切ると、涼一の肩を抱き寄せた。 「だからね、涼一くんとのことは自分でも驚いてるんだよ。君も俺の患者の一人のはずだったんだから。でも、今じゃ結婚して一緒に暮らしてるし」 「先生……」 「だから勇介だろ? 夫を『先生』呼びするのかい? 涼一くんは。……まあ、シチュエーション的には興奮するといえなくもないけどね」 「な、な、何言って?」 「セックスのときの『先生』呼び。たまになら悪くはないけど、やっぱり名前で呼んで欲しいな」 「…………」  いったい何を言い出すのだろう?  涼一が真っ赤になって勇介を見つめると、彼はにっこり笑って。 「ほら、もうリスカのことなんか忘れただろ? 涼一くんにはやっぱり快楽でリスカ願望を忘れてもらうのが一番かな」 「な、何言って?」 「言っただろ。俺はまた狼に豹変するかもって」 「せ、先生って、他の患者にもそんなこと言って――」 「るはずないだろ。涼一だけが特別だって、なんで分かってくれない? 俺たちは看護師と患者以前に夫婦なんだよ」  先生の優しい瞳に鋭い野生の雄の色が見えた気がした、次の瞬間、涼一の体がふわりと浮いた。 「えっ!? うわ! 何?」  涼一が暴れるも、勇介の力強い腕はビクともしない。一見優男風の勇介もやはり大人の男だ。  そしてそのままベッドに放り投げられ、勇介が涼一の上に覆い被さって来る。 「せ、先生、勇介さん、待って」 「待たないよ、今日は一日涼一のために使うって決めたんだからね」 「勇介さ――んっ」  唇が合わせられ、舌が侵入してくる。口内を蹂躙され涼一の頭がぼーっとしてくる。  まだ朝も早い時間だ。寝室はカーテンが開けられ、明るい日の光が降り注いでいる。  そんな中で涼一は勇介によって、一糸纏わぬ姿へとされて行った。

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