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第42話 立ちふさがる壁

SIDE.RYOUICHI  勇介のお父さんが女性を伴いやって来た時、涼一は嫌な気持ちにしかならなかった。  お父さんが連れて来た女性は見た目二十代後半くらいで、スタイルの良い、今風の美人だった。 「こっちへおいで、涼一。大切な話があるらしいから」  涼一はおずおずとソファの勇介の隣に座る。 「涼一くんとは結婚のときの契約のときに会って以来だね。もう勇介との暮らしには慣れたかい?」 「……はい……」  涼一はもともとコミュ障なので、そう答えるのが精いっぱいだった。  それに、お父さんはとても優し気に話しかけて来るが目が笑っていないので、怖い。  多分、勇介さんのお父さんは政略結婚した俺のことを嫌ってる。  当然だよね、いくら会社の利益になるからって同性と結婚するなんて……。  勇介の方に擦り寄ると、安心するように手を握ってくれる。その手の暖かさと力強さにようやく気持ちが落ち着いて来たのも、束の間。 「――じゃ、手っ取り早く本題に入るが、さっきも電話で話したように、この女性……桂木祐実(かつらぎゆみ)さんと結婚しなさい、勇介」 「父さん、俺はもう涼一と結婚してるんだよ、悪いけどこの話はなかったことにしてくれ」  勇介は苛々とした様子で告げる。 「あれは会社同士が大きくなるための政略結婚にすぎない。籍だって養子だしな」 「俺は涼一のことを好きだし、涼一も俺に好意を抱いてくれている。他の誰とも結婚する気はない。俺の『妻』は涼一だけだ」 「勇介さん……」  はっきり断ってくれて、俺は安堵したんだけど……現実はそう甘くはなかった。  勇介のお父さんは呆れたように。 「別におまえが男の涼一くんを好きになるのは自由だ。そこまで分からず屋の親ではないつもりだよ。だから涼一くんは愛人になってもらい、祐実さんと改めて籍を入れなさい。祐実さんはうちの秘書室の中でも一番の美人で、ときどき会社にやって来るおまえに好意を抱いてくれているし、これ以上はないいい条件だろう?」  そのとき祐実という女性が勇介の方を見て、恥じらうように微笑み、次に涼一の方を見て、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。  涼一はここまでの流れでも十二分に落ち込んでいたのだが、続けて口にした勇介のお父さんの言葉に絶望感を味わった。 「それに、祐実さんなら谷川家の跡取りを産んでくれるだろう。……勇介、こればっかりは男の子の涼一くんには無理な話だ」 「……俺は子供なんかいらない。涼一がいればそれでいい」 「そういうわけにはいかない。勇介、会社の近くに新居を用意してやるから、そこに祐実さんと住みなさい。涼一くんには引き続きここに住んでもらえばいいだろう」 「勝手に決めるなよ!!」  珍しく勇介が激高する。  その隣で涼一は俯くことしかできなかった。  なにもかも勇介のお父さんの言うとおりだったからだ。男同士で結婚なんて、現在の日本では認められてないし。男の涼一に勇介の子供を産むことは絶対にできない。  涼一は唇を噛みしめた。 「……涼一? 大丈夫かい? 涼一……!」 「…………」  勇介の呼びかけに涼一は返事をすることができなかった。口を開いたら情けなくも泣いてしまいそうだったから。 「とにかく父さん、帰ってくれ。俺はその女性と結婚するつもりはないから」  うんざりしたように勇介は言うが、お父さんも引かない。 「だめだ。これはもう決定事項だ。おまえにはどうしても会社を継いでもらい、そしてこの祐実さんにおまえとの子供を産んでもらう。勇介、母さんも孫の顔を見たがってるぞ」 「いい加減にしてくれ……そうやって昔から俺の自由を奪ってばかりだ。今までは言いなりになって来たけど、今回ばかりはそうはいかない。俺には涼一だけだ」  勇介は言葉を放つと無理やりに父親と祐実を部屋から追い出した。

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