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第43話 重すぎるものたち
勇介は玄関の鍵を閉め、チェーンまですると、涼一の傍まで戻って来てくれた。
ソファに腰かける涼一の前に片膝を立ててしゃがみ込むと、ギュッと両手を握ってくれる。
「涼一、嫌な思いさせて悪かったな。もう二度と父さんたちにはここに来させないから」
「……もう、やだ」
「涼一……」
「勇介さん、あの女の人と結婚すればいいじゃん。そしたら、何もかもうまくいくんだろ? 俺、こういうめんどくさいこと大嫌いなんだ」
勇介のお父さんの冷ややかな目と、祐実の勝ち誇ったような笑みが頭にこびりついて、涼一は半ばパニックを起こしていた。
「……涼一……」
「俺はこの部屋に残るから勇介さんは新居とやらに行けばいい。しょせん俺たちの関係は政略結婚っていう愛のないものな……ん、だ、か……ら……」
どうしたんだろ? 息が苦しいっていうか、呼吸ってどうやってするものだっけ?」
「涼一!」
勇介の声が遠くなっていき、涼一は意識を失った。
次に涼一が目を覚ましたとき、もう辺りは夕闇に包まれていた。すぐ傍で勇介が心配そうに見つめている。
「涼一……? 気が付いた?」
「……勇介さん……? 俺……?」
まだ頭がボーとしていて、記憶が繋がらない。
「過呼吸を起こして倒れたんだよ」
過呼吸……。
それを聞いて一気に嫌な記憶が蘇った。
「涼一、ダメだよ。何も心配しないで今は眠りなさい。俺を信じて」
そう言って勇介が涼一の額に優しい口づけを落としてくれる。
「……冷蔵庫が空だったから、ちょっとコンビニで食べるもの買ってくるから、大人しく寝てるんだよ。外から鍵かけて行くから、誰が来ても開けちゃいけないよ」
「……うん」
「いい子だね。何か欲しいものあるかい?」
「……プリン」
「分かった。……それと涼一、俺の『妻』はおまえだけだから」
真剣な涼一の瞳に、涙が零れそうになるのを堪える。
「うん。……行ってらっしゃい」
勇介がコンビニに出かけたあと、涼一はベッドから降りると、キッチンに行った。
シンクにあった硝子のカップを床に叩きつけて割る。
砕け散った破片の大きめのものを右手に取ると、涼一はそれで一気に左手を切りつけたのだった。
二つの会社の発展のための政略結婚。
冷ややかな勇介の父親の瞳。
祐実という女性の勝ち誇った微笑み。
男同士ではどうしても生み出せないもの。
愛人という立場。
そのすべてが、まだ十八歳の少年の心に重く伸し掛かっていた。
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