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第44話 遠ざかる距離

SIDE.YUUSUKE  勇介がコンビニから帰って来た時、涼一は左腕と右手を血で真っ赤に染めていた。 「なにしてるんだ!!」  買って来たものを投げだし、涼一の傍に駆け寄ると、彼は硝子の破片でリスカをしていた。左手にはいくつもの傷が走り、その鋭利なガラスの破片の所為で右手まで血に染まっている。  勇介は涼一の手からガラスの破片を奪い取ると、止血のためタオルで彼の左腕をきつく縛った。 「来るんだ!」  そして涼一を抱き上げると、駐車場まで急ぎ、彼を近くの外科へと連れて行った。  幸い発見が早かったため大事には至らなかったが、ただでさえ痛々しい涼一の腕にまたリスカのあとが幾つも残る羽目になった。硝子の破片を握っていた右手もざっくりと切れており、この傷も痕は消えないという。  今は精神安定剤を飲ませて、病院のベッドで横になっている。すぐにマンションへ連れて帰って落ち着かせてやりたいのだが、涼一の右手から硝子の破片を取り上げたとき、勇介も右手を切ってしまい、縫ってもらっているのだ。  勇介の治療が終わり、 「……涼一、帰ろう」  と声をかけると、素直にベッドから降り、ついて来た。  車の助手席に座るように促し、車を発進させる。 「……ごめんなさい……」  おもむろに涼一が謝った。 「勇介さんにケガさせて」 「そういう問題じゃないだろう!?」  精神的に参っている涼一に声を荒らげるのは良くないと知っていながら、それでも勇介は怒鳴らずにいられなかった。  ビクッと体を震わす涼一に、言葉を重ねる。 「俺の傷なんかどうでもいいんだよ! それよりなんでまたリスカなんかしたんだ!!」 「…………」  涼一は俯いたまま何も答えない。  勇介は重い溜息をつく。 「……そんなに、俺が信じられない?」 「…………」 「俺が好きなのは、傍にいて欲しいのは、涼一、おまえなんだよ。誰が何と言おうと関係ない。なのに、どうして分かってくれない?」 「……ごめんなさい」  涼一の大きな目から涙が零れ落ちた。  勇介は唇を噛みしめた。  こんなふうに泣かせたいわけじゃない。  ただ俺を信じて欲しかっただけ。  でも。  涼一は普通の十八歳より、全然幼いし、すごく繊細だ。   勇介の父親が祐実を伴い、やって来たことは、すごくショックだっただろう。 「……怒鳴って悪かった。ごめんな……」  そう言って涼一の柔らかな髪を撫でてやると、ふるふると首を横に振った。  それから二人は無言でマンションまで帰った。  せっかく涼一との距離が近くなったと思っていたのに、今回のことでまた遠くなってしまうような気がして、勇介はとても寂しかった。 

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