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第49話 親友の存在
SIDE.YUUSUKE
その頃、勇介は空いた時間を利用して昼食を取っていた。
涼一、一人で大丈夫だろうか――本当はあんまり大丈夫な状態ではなかったのだが――そんな心配をしながらサンドイッチを口に運んでいると同僚の高階昭(たかしなあきら)に声をかけられた。
「よう、谷川、何ぼんやりしてるんだ?」
「ああ、高階、おまえもここらの担当なのか? 今日」
高階とは同僚の中で一番仲がいい。プライベートでも遊んだりするので親友と言っていいだろう。
「うん。目の前のマンションだよ。それよりなんか心ここにあらずって感じだけど何かあったのか?」
高階は心配そうに聞いてくれる。
「ああ。ちょっと家のことでな」
「悩みがあるなら、いつでも聞くぜ?」
「サンキュ」
勇介は涼一とのことを高階にも話していなかった。
でも今はいろいろ聞いて欲しかったので、高階の優しさに甘えることにする。
「……実は俺、結婚したんだ」
「えっ!?」
高階は相当驚いたようだ。それも仕方ない。このところは勇介には彼女がいない状態が続いていることを彼は知ってるからだ。
「おまえの実家の関係か? もしかして見合いしたのか?」
「見合いじゃないけど……政略結婚した」
「…………」
言った途端、高階が勇介のことを憐れむようなそれでいて非難するような複雑な表情をした。
勇介もまじめな方だが、高階はそれに輪をかけてまじめなので、政略結婚などという愛のない結婚は認めたくないのだろう。
「そんな顔するなよ。政略結婚したのはいろいろ訳があったんだから。それに今は相手のこと心から愛してるんだ」
「……いったいどんな人なんだよ?」
「ちょっと問題は抱えてるけど本当は優しい子で、綺麗な子だよ」
「幾つ?」
「……十八歳」
「じゅ、十八歳!? お前の半分の歳じゃないか。そんな女の子と――」
「女じゃない」
勇介が高階の言葉を遮ると、彼は訳が分からないといった顔になった。
「男、なんだよ。俺の結婚相手は」
「――――」
今度は高階は金魚のように口をパクパクさせた。
涼一とのいきさつを全て話すと、高階はようやく納得してくれた。
「十代の少年に手を出したことは感心しないけどな」
「好きな相手と一緒に暮らしてて二年間も手を出さずにいるほど、聖人君子じゃないよ、俺は」
「まあ、な」
「それに俺はあの子を縛り付ける気はないよ。あの子が俺の傍から飛び立ちたいと言えば、いつでも解放してあげる気でいるから」
「それは……辛いぞ。おまえの話聞いてるといかにその少年のこと溺愛してるか分かるし」
「それでも、好きだからこそ手放さなきゃ、いけないだろ」
涼一がいつまでも勇介の傍にいてくれたら、どれだけ幸せだろうと思うけど。
「真剣なのは分かったよ。それで明日には今のマンションから引っ越すのか?」
「ああ。仕事が終わったら不動産屋に寄ってみるつもりだよ」
「訪問看護の仕事は続けるんだよな?」
「うん。これからはもっとシフトを増やして貰うように頼んである。それと俺の引っ越し先を誰にも教えないようにして欲しいってこともね。だから、おまえもこのことはここだけの話にしといてくれ」
勇介が拝むような仕草をすると、高階はニカッと笑って。
「勿論。分かってるよ」
了解してくれた。
不動産屋に寄っていたので、マンションへ帰るのが少し遅くなってしまった。
息を切らして部屋のインターホンを鳴らすと、
「……誰?」
扉の向こうからひどく怯えたような涼一の声が聞こえた。
「俺だよ。涼一」
「勇介さん……!」
カチャカチャとチェーンを外す音と鍵が開けられる音がし、扉が開くと同時に涼一の華奢な体がぶつかって来た。
それを受け止めながら。
「どうしたの? 何かあった?」
「…………なんでもない」
「なんでもないはずないだろ、こんなに震えて。……とにかく中に入ろう」
涼一の肩を抱いて部屋の中へ入る。部屋は真っ暗で電気も点けていない。
「いったい何が……もしかして、あの女がまた戻って来た?」
勇介の腕の中でフルフルと首を振る涼一。
「じゃ、何が? …………もしかして俺の父さんが来たの?」
涼一はあからさまにビクッと体を震わせた。
勇介の父親はかなり圧の強い人間だ。勇介も子供の頃はそんな父親が怖くて、なんでも言いなりになってた。
涼一みたいに繊細な少年にとってはかなりの脅威だっただろう。
「もう大丈夫だから」
勇介は涼一を力いっぱい抱きしめた。
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