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第57話 始まりのキス

SIDE,YUUSUKE  涼一の言葉を受け、勇介は愕然としていた。  ベッドに潜り込んで泣く、愛する人の声だけが狭い部屋に響いていた。  ずっと涼一のためだと思ってあえて彼を縛る言葉を吐かないでいた自分。  いつまでも、永遠に、ずっと。  そう言った言葉は十八歳の涼一の未来を閉ざすと思って、決して言わないでいた。 『涼一が望む限り』  いつでも俺の傍から飛び立ってもいいから、と彼のためを思って言ってたつもりだった。  でも、本当は。  怖かっただけ。  どんどん涼一を好きになっていく自分。好きって思いに終わりはなくて。  ……俺の方だけだと思ってたんだ。こんなに相手のことを好きなのは。  でも、涼一も俺のことをすごく思ってくれていて。  幼いからその分真っ直ぐに一途に勇介にぶつかって来てくれた涼一。  情けないけど、そんな彼に気づかされたんだ……俺は自分の真実の気持ちを。  勇介はベッドの傍に行き、シーツに包まり泣き続ける涼一の背中にそっと触れた。 「涼一」 「…………」  くぐもった泣き声。 「涼一、覚悟して。俺、もう遠慮しないよ? おまえが俺の傍を離れたいって言っても、そう簡単に離してやれないよ? それでもいいかい?」  涼一の泣き声がぴたりとやんだ。 「俺は誰よりも涼一が好きだよ……他のどんな存在も許せないくらいに。それが俺の本音。今までは看護師の方の俺がセーブをかけていたけど、もうそれもできない。おまえの夫としての俺がいるだけだ。愛してる、絶対に離さない……永遠に」  勇介が力強い声で誓いの言葉を言った次の瞬間、涼一がシーツから飛び出し、抱きついて来た。 「勇介さんっ」 「ごめんね、涼一、俺のどっちつかずの態度で一杯傷つけて来たね。でも、もう俺も大人ぶるのはやめにする。涼一のためだけに生きて行くから、俺の傍から離れないでくれ」  そう、もう十八歳だとか、年の差とか、考えない。  訪問看護師として、涼一を外の世界へ連れ出す手助けはするけど、それでもそれは俺と一緒に、だ。 「俺すごく悲しかったんだから、勇介さん」  腕の中で涙声で涼一が訴えかけて来る。 「ごめん」 「勇介さんの寂しげな顔、嫌いだ。別れの予感みたいな気がして、怖かった」  勇介は涼一の背中を優しく撫でながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。 「俺は自分の半分の歳のおまえが、いつか俺の傍から離れて行くんじゃないかと……いや、いつかは大人の責任としておまえを手放さなきゃいけないと思い込んでた」 「馬鹿じゃねーの。さんざん、その、……やらしいこと俺にしといて今更何だよ……?」 「そうだね」  二人は微笑み合いどちらからともなく口づけを交わした。  それは今までで一番甘いキスだった――――。

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