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第60話 何処へ?
SIDE.YUUSUKE
いつもより随分早い時間に帰って来た勇介は、玄関のドアが施錠されていないことに嫌な予感を覚えた。
「涼一!?」
慌てて部屋の中に飛び込んでみると、ベッドに座る人影。
しかしそれはいつも見慣れた涼一のそれではなかった。
「おかえりなさい」
勇介に笑いかけるのは見たくもない女性、祐実だった。
「……っ! おい、涼一はどこだ!? どこに行った!!」
勇介は祐実に詰め寄った。
「ちょっと痛いわ。勇介さん」
「君に『勇介』なんて呼ばれる筋合いはない!」
「冷たいんですね、相変わらず。でも、もう涼一くんはここには帰って来ませんよ。あの子のお父様が連れて帰られましたから」
「…………!」
まさか、昨日の今日でこの部屋が見つかるなんて……油断した。
勇介は激しく後悔した。
愕然とする勇介に、祐実が擦り寄る。
「勇介さん、私待ちますから。でも大丈夫です。きっとすぐにあの子のことなんか忘れてしまえます。私が忘れさせてあげます」
勇介は祐実を突き飛ばし、睨みつけた。
「俺が君を好きになることはない。俺には涼一だけだ」
そう投げるように言うと、勇介は部屋を飛び出した。後ろから祐実の声が追いかけて来る。
「無駄ですわ。もうあの子とは会えません、二度と」
それを無視して勇介は駐車場へと向かった。
涼一を取り戻すために。
涼一……!!
心の中懸命に愛する人の名前を呼びながら。
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