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第61話 もう、会えない
SIDE.RYOUICHI
涼一……!!
涼一の耳朶に勇介の声が聞こえた気がした。
勇介さん……!?
両端を屈強な男二人に固められながらも、涼一は何とか身じろぎをして、後ろを見やった。
しかし、そこに勿論勇介の姿はなく、黄昏時の街並みが流れて行くだけだ。
涼一の手にパタパタと涙が零れ落ちる。
そんな息子の姿を見た助手席の父親は苦々しい顔で言い放った。
「男のくせにこれくらいのことで泣くんじゃない。女々しやつだな」
「うるさ、い。……いいのかよ? 俺たちが……離婚したら、お互いの会社が困るんじゃ、ねーの?」
涙声で反撃の声を上げるも父親はせせら笑うだけだ。
「日本では同性婚は認められてないことくらいおまえも知ってるだろ。おまえと谷川家の息子はあくまで養子縁組しただけだ。そして、それは解消していない。最初から時期が来たら養子縁組の形だけ残して、おまえを連れて帰るつもりだったんだよ。私は。一応おまえはうちの会社の跡取りなんだからな」
「…………」
涼一はもう父親に言い返す気力もなかった。
「だんな様、自宅の方へお帰りでよろしいでしょうか?」
運転をしている男が父親に訊ねる。
「いや。あの家は谷川の息子に知られているからだめだ。別荘の方へやってくれ」
「かしこまりました」
そのやり取りを聞いて涼一は絶望的に気持ちになった。
別荘というのは父親が大切な客を招くためのもので、今の今まで親から見捨てられていた状態だった涼一も訪れたことがなかった。
そんな場所、勇介さんが分かるはずがない。
もう二度と勇介さんに会えない?
ふと左手の薬指に視線が行く。
本当なら今頃この指にお揃いの指輪をして、勇介さんと二人微笑みを交わしてるはずだったのに。
『涼一……』
優しく笑う勇介の顔を思い浮かべて、涼一は涙があふれて止まらなかった。
会えない。もう二度と。
勇介さんと。
会えない。
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