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第62話 監禁
それからどれくらい車は走っただろうか。
車は森の中にある、とある別荘の前でとまった。周りには同じような別荘たちがあるだけで、コンビニもスーパーもなにもない。街に出るには車を使わなければ不可能なようなところだった。
涼一は運転免許は持っていないから、逃げ出そうとしても迷ってしまうだけだ。季節はずれの所為か他の別荘に人がいる気配もない。
父親は二人の男たちに命じて、無理やり涼一を別荘の中へと入れた。
「今夜から当分、おまえはこの別荘で暮らすんだ。手首を切ったり、薬を大量に飲んだりするのはもうやめろ。おまえは仮にも我が社の跡取りなんだからな」
父親の言葉には愛情の欠片も感じられなかった。
リスカやODをいさめるのもあくまで会社の対面のためなのが、丸わかりだった。
……勇介さんは俺がリスカしたりすると本気で心配してくれた。それは恋人関係になる前からだったっけ。まだ単なる訪問看護師と患者だった頃から俺のことを本気で心配してくれた。男同士で政略結婚をしたのも俺を自由にするためにしてくれたことだ。
勇介さんは優しくて、本当に優しくて。一番に俺のことを考えてくれた。
勇介のことを思うと涙は枯れることなく零れ続けた。
父親はそんな涼一を見て、呆れ果てたという顔で言う。
「どんなに泣いても、もう谷川の息子とは会えないぞ。……私は明日も会社があるから帰る。おまえも跡取りの身なら経営学を少しくらい勉強しておけ。ここなら誰にも邪魔されることなく勉強もできるだろ。それから今夜の食事は冷蔵庫に入っている。明日からの食事はこの男たちが一日交替で運んでくるからな」
そして、父親と男二人は帰って行った。
ご丁寧にも外から鍵まで掛けて。
遠くで動物が鳴く声が聞こえた。
あれは何の鳴き声かな……フクロウ?
ぼんやりと涼一は思う。泣きすぎて頭が痛い。吐き気もしていた。
食欲はまったくない。
……勇介さん、今頃心配してるだろうな……。
勇介さんと暮らしていたあの部屋へ戻りたい、戻りたい。
でも、戻れない。
その事実が涼一を苦しめる。
この別荘を一通り調べてみたが、玄関も裏口も外から鍵が掛けられ、窓も開かないようになっていた。
それに例えこの別荘から出られても、森の中で迷子になるだけだ。
せめてスマホを持って来ていれば。
悔やまれるが、スマホはマンションのベッドの上だ。
涼一は書斎と思われる部屋の机の上にあったカッターナイフで久しぶりにリスカをした。
勇介と出会うまではリスカをすれば、少しの開放感みたいなものを覚えていたが、今はもう開放感などなく、ただ虚しさだけが心を占めた。
たった一人広い別荘に監禁されて、涼一は考える。
どうすれば、この別荘から出ることができるかと。
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