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第63話 絶望
それから一か月ほどの時間が流れた。
相変わらず涼一は別荘に監禁されたまま、勿論勇介に会うこともできないでいた。
三度の食事は父親の部下の男が、まるで一流ホテルのようなご馳走を持ってきたが、涼一はそれにほとんど手を付けなかった。ただでさえ、華奢な涼一はどんどん痩せて行ったが、それでも一縷の望みを捨てないでいた。
もう一度勇介さんと会うことができる、と。
しかし、ある休日、父親が別荘にやって来て、その望みさえ消してしまう。
「涼一、食事をとっていないと聞いたが、いい加減にしなさい。……谷川の息子は訪問看護師をやめて、社長に就任したぞ? 秘書の女性と婚約したとも聞いた。もうあきらめなさい」
「……!!」
父親の言葉は弱っている涼一を打ち砕いた。
勇介さんが社長になった? 秘書の女性……祐実のことだろう……と、婚約?
細い細い最後の希望の糸さえ切られた涼一は、そのまま気を失った。
次に目を覚ましたとき、涼一は病院のベッドに寝かされ点滴を受けていた。
「あら? 気が付いた? 今先生を呼んできますからね」
優しそうな中年の看護師がそう言い、病室から出て行った。
やがて医師がやって来て、涼一はひどく怒られた。
「ひどい栄養失調で、あと少しで命の危険もあるところだった」
「……ごめんなさい……」
「子供をこんな状態にして、親は何をしてるんだ!?」
病室には父親も母親も来ていない。そのことにも医師は憤慨してるようだった。
だが、実を言うとこれは涼一の作戦だった。
食事をとらないで倒れたら、いくらあの父親でも病院に運ぶだろう。
そしたら、折を見て病院から抜け出し、勇介の元にどうにかして帰るつもりだった。
別荘に監禁されている限り、勇介に会える可能性はないので、涼一が考えた苦肉の策だった。
しかし全て無駄に終わった。
勇介は社長になり、祐実と婚約してしまった。
もう涼一が行っても、会ってくれないだろう。
勇介さんにとって俺とのことは、たった一か月で忘れてしまえるほど軽いものだったんだ。
永遠の愛を誓うよ、涼一……君に。
あんなふうに言ってくれたのに……。
涼一はもう何もかもがどうでも良くなり、点滴の管を抜こうとした。
病室の前を通りかかった看護師が慌ててそれをとめる。
「いけません。点滴を抜いちゃ。これで栄養を補ってるんですよ……!」
「うるさいな。俺の体がどうなろうと、関係ないだろ」
暴れて点滴を抜こうとする涼一に医師がやって来て睡眠剤を注射した。
人工的な眠りに落ちて行きながら、涼一の目から涙が頬を伝って落ちた。
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