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◇ ◇ ◇
「んで、理由は」
誕生日から一ヶ月後・午後。
同じカフェのソファー席で、朝五は恋人である孝則とその友人だった男の二人を前に表情を失っていた。
「最初は普通に友達で、俺もコイツも友達としてつるんでた。でもだんだん、コイツといるのが一番楽しいんだよなって思って……」
「ふーん。つまり俺とじゃ楽しくなかったってことかよ」
「そ、そうじゃねぇよ。朝五といても楽しかったし、ちゃんと好きだった。ただコイツといるほうがしっくりきて、ずっと一緒にいてぇって思っただけなんだ。コイツが一番好きだって気づいたんだよ……」
「へー。じゃあ一番好きな人じゃない俺とはどうして一緒にいたんですかー」
「夢目乃くん、本当にごめんなさい……! 恋人がいるってわかってても、諦められなかった僕が悪いんだよ……っ!」
「はぁ? 悪いのは誰かとか関係ねぇよな? なんでこの結末になって今この状況なのかって話だよな? あとお前関係なくない? 俺とたかりんの話じゃね?」
「孝則くんは悪くないよ!」
「たかりんが悪いとか言ってねーけども」
「頼む、朝五……! 許してくれ……! コイツは悪くねぇ! 自分の気持ちに気づかなかった俺が悪いんだ……!」
「違う! 僕だよ……! 友達じゃ嫌だった……っ! 本当にごめんなさい……!」
「そっちが悪いとも言ってねーけどもー」
なんだこの茶番。
お互いを庇い合って頭を下げる二人を、朝五は力のない目で見下ろす。
朝五は怒っていない。本当だ。
なぜなら孝則は浮気をしたわけじゃなく、心変わりに気がついたので朝五と別れて隣の男と付き合いたいだけだからだ。
一番好きな人だったと気がついた。
つまり朝五が一番ではないと気がついた。シンプルでわかりやすい絶望だ。
わかっていたのだから、ずっと前から海馬が伝達していたことを改めて突きつけられる処刑タイムに過ぎない。
ただ、なぜ処刑だけでは飽き足らず公開処刑と朝五に成り代わった男のお披露目会をされなければならないのかが、これっぽっちも理解できなかった。
簡単な話だろう?
孝則が言い訳をせずに一言「別れよう」と言ってくれていたならば、多少の話し合いで済んだはず。
なのにわざわざ授業が終わったあと人目のあるカフェへ呼び出され、二人揃って交際したい宣言。
腹をくくってやってきた朝五のなにを勘違いしたのか、美しい愛を見せつけながら謝罪合戦を始めている。
ざわめくカフェ店内からちらほらと視線を感じた。居心地が悪すぎる。
「はぁ……」
「っ」
朝五が深いため息を吐くと、二人は罪悪感を露骨に表し再度謝った。謝罪なんていらない。
朝五はもし孝則に別れ話をされたなら話し合い、納得のもと円満に別れようと決めていた。
この日を迎える前に孝則を諦める腹をくくった朝五にとって、そうすることが唯一プライドを守る方法だったのだ。
だが、それももう……こんな状況では、難しいだろう。
「はいわかりました。お別れしましょー。俺は今日からたかりんの元カレでーす。文句もなければ未練もなくキレイさっぱり円満バイバイといたしましょー」
朝五はガタンッ、とわざとテーブルに膝を当てて立ち上がった。
軽い調子でわざと抑揚をつける。
ニコニコ笑顔も忘れない。
トントンとスマホを触ってこれみよがしに連絡先を消し、孝則との予定をタグ付けしておいたカレンダーをキレイに削除。
そして物分かりのいいフリをしながら財布を取り出し、千円札を一枚手に取る。
「そのかわり、二度と話しかけんじゃねぇ」
朝五は二人をできる限りの冷めた視線と真顔で見下すと、バンッ! と千円札をテーブルに叩きつけ、振り返ることなくその場から歩き去ってやった。
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