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八 アツくて苦しくてどうしよう、気持ちい

 投げ込むようにベッドの上に仰向けに転がされる。  初めて入ったラブホのシーツは糊がきいててぱりぱりしてて、固いなって、思った。  みはがオレの上におおいかぶさってきて、唇に唇がふれる。  あ。  どうしよう、やばい。  唇が唇に触れた、それだけのことなのに、ものすごい気持ちいい。  生身なのに。  なのに、初めてのキスのときみたいに肉じゃない。  全然、肉って思わない。  それどころか。  みはに口全体を覆われる。  みはの舌がオレの唇をなめる。  誘うようにちらちらとなめられて、口を開いたら舌が差し込まれた。  こんなに生々しいのに、気持ちいいって、どうしよう、オレ。 「……んっ」  軽く舌をかまれて声が出た。  甘い声。  動画で何度も聞いたような甘えた声。  自分から出たなんて、びっくりだ。  みはが目を細めて笑ったのが見えた。  そっと唇が放される。 「良哉、かわいい」  あんまり甘い声で、心底嬉しそうに言うから、急に不安になった。 「か、かわいいとか……やめろよ……」 「何で? 大好きなのに」 「だって、オレ、みはの理想の恋人なんてきっとなれない」  まず男だし。  平均点ど真ん中の、誰の記憶にも残ってないような、平凡なつまんない男なんだよ。  かわいいわけ、ない。 「そんなことないよ」 「だって」  言いつのろうとしたら、耳タブを甘噛みされた。 「…ん……」 「勝手に変なプレッシャー作らなくていい。良哉が好きだ。良哉がいいんだ。俺に恋人の理想があるなら、良哉が理想だ」 「変だろそれ」  瞼にキスが降ってくる。  鼻の頭に。  頬に。  耳に。  唇に。 「俺は自分が変だって知ってる。男が好きなマイノリティーだ。けど、良哉は応えてくれるだろ。こんな俺に応えてくれるなんて、そりゃもうそれだけで、最高に理想的じゃないか」 「だって」  だっての続きは、聞きたくないとでもいうように、性急にみはの唇で封じられた。  違う違う。  聞いてみは。  否定なんてしないから。  だから聞いて。  口腔を蹂躙するキス。  ベッドに押し付けられて、ぱりぱりした固いシーツの感触が背中にする。  キスをしながらバスローブの前をはだけて、みはの手が素肌をなでまわす。  苦しいよ。  息が上がる。 「はっ……」 「息して、良哉。声を聴かせて」 「バカみは……っ応えるに、決まって……るっ」  肩を押しても止まってくれないから、必死に声あげた。  ゴツンて、みはの額に額をぶつけた。 「良哉?」 「こんなの、男同士でエッチするとか、突っ込まれる方になるとか、同情とか、そんなんだけで、できることじゃないだろっ……」 「良哉」 「好きだよ……ちゃんと、好きだ。オレはずっと、みはのことが好きだったんだ」  ぴたりと、みはの動きが止まった。 「……ずっと……ってマジで?」  オレの目を覗き込んで、おそるおそる確認するようにみはが問う。 「俺の好きは、良哉にこんなことしたいって好きだよ? 良哉が欲しくて、他の誰も見ないように、閉じ込めちゃうかもしれない、そんな好きなんだよ?」 「オレの好きはっ! オレの好きは……夜中にこっそり男同士のやり方調べちゃうような好きなんだよっ!」 「へ?」  みはの目が丸くなる。  だからさっきから、ちゃんと好きだって言ってんのに。  同情じゃないって、そんなんじゃ、こんなことできないって言ってるのに! 「だからっ! ちゃんと手順ふめって、言った!」 「良哉」 「お前だけが好きなんじゃないよ。お前だけが暴走してんじゃない。お前だけが変なんじゃない。オレだって……オレだって、お前が、好きだ……」  頑張って言ったら、みはがゆるゆると笑った。  最初はものすごく驚いた顔してて、そこからびっくりするくらい嬉しそうに笑ったんだ。  それからあと、ものすごく嬉しそうなみはに、好き勝手されまくった。  部屋の中に、ちゅくちゅくちゅく、と水音が響く。  みはがオレの身体のあちこちに吸い付いている音。  それから、オレの足が勝手に動いて蹴ってしまう、シーツの衣擦れの音も。  ノリがききすぎてたくらいのホテルのシーツは、もうぐちゃぐちゃになってる。  汗や体液やいろんなもので湿り気を帯びてる。  でも、止まらない。  止められない。  確かめるんだろ。  そういって、先に一回みはの手でイかされてるオレの身体は、もうふわふわでアツくて、自分でコントロールできなくなってる。 「ふっ…く…ぁ、みはっ…みはる…っ」  胸にかじりつかれて、変な声が出る。  オレは自分がそんなとこで感じるなんて、全然思ってもみなかった。  オレの右手は指と指を絡めるようにみはに囚われて、シーツに押し付けられてる。 「もっと呼んで」 「みは」  空気が欲しくて口を開ける。  でも、息を吸う前にみはから与えられる刺激で、息を吸う間がない。  一度大きく声が出たら止められなくなりそうで、押さえていたら、余計に息が上手くできなくて、目の前がくらくらする。  すがりつくものが欲しくて伸ばした左手が、捉えられシーツに縫いとめられた。 「もっともっと、呼んで……良哉……」 「あ…あ、ふ……み、は……みは、みは……」  もっと、もっと、と、みはがオレを求める。  逆らうことなんて考えつかなくて、つらいくらいに身悶えてるのに、もっと欲しいとねだりたくなる。  足りない。  みはが、足りない。 「良哉……見せて……もっと……」  みはがオレの額にキスを落としてから、身体を下にずらす。  さっき一度決壊したはずのオレは、また、張り詰めて熱をためている。 「良哉、すげえ、エロい……」  先端にくちづけて、みはがオレの脚を大きく割り開く。 「どろどろで美味そうになってるけど、今度は待っててな」  たまった熱はそのまま放っておかれて、フルフルと震えている。  みははオレの太腿を持ち上げて、内股に印を落としていく。 「った……」  ちゅううっと吸い上げられるたびに、ちりりと痛みが走る。  何?  なんとか体をひねって、みはを見たらにやりと笑われた。  オレの脚に散らばる、赤い痕。 「良哉は、俺の」  みはがつけたばかりの印に、嬉しそうに口付ける。 「こんだけギリギリだと、ユニフォームでも大丈夫かな……」 「や、ばか、見えるようなとこ……やめ、ろって……はぅん……」  さわりと撫でられて、また声がでる。 「誰かに見られるかもって、想像した?」 「し、てな……んんっ…」 「良哉はここも感じるんだ……すげえ、敏感だな、お前」  敏感にもなるだろ。  だって、触ってんのお前だよ。  みはがここにいるってだけで、バクバクすんのに。  二人ともまっぱで、あられもないとこ目の前にさらけ出していて。  あの指がオレに触ってる。  オレの身体のあちこちを……それこそ普段は人に見せないようなところも、甘く優しく触れられてる。  思うだけで、もう、イケそうだ。  心肺機能は人並み以上にあるはずなんだけど、このまま心臓壊れんじゃないかって心配になってくる。  それくらい、全身がバクバクしてる。  バクバクさ加減だけなら、三十キロ走るのにチャレンジした時以上かもしんない。 「みは…っふっ…く、ぁ、みは……み、はぁ……」  オレの脚の間で楽しそうにオレの身体をいじりまわってるみはの頭に手を伸ばす。  止めたいわけじゃない。  どっか、みはに触れていたかった。  髪の間に指を差し込んだら、まだ、たっぷりと水分を含んだままだった。  乾かす暇もなく、ベッドにダイブしたから?  それもあるけど、きっと、汗。 「良哉、声、聞かせて。気持ちいいなら、教えて……な」  オレがひっぱったら、みはは一旦体を起こした。  はふはふしているオレを、楽しそうに見下ろして優しく髪を梳く。 「好き。良哉かわいい……」  喰われるかっていう勢いで、キスをされる。  何かごそごそしてるなって思ったら、みはの指はぬめりをおびていて、オレの奥まったところで遊びだす。 「あっ……そ、んな……みは……」 「いいよ。声出して。いっぱい聞かせてよ」  濡らされて解されて抜き差しされて。  ぐちゅぐちゅと音がする。  キツイ。  もの凄い違和感がある。  でもダメだ。  オレ、マゾだったのかな。  キツイのに気持ち悪いのに、嬉しい。 「あっ……ふ……ふぅ…みはぁ……」 「うん、俺だよ……良哉……」  何度も何度も、冷たいなにかがみはの指に流される。  ぬるぬるしてて、気持ち悪いのに気持ちいい。  どれくらいそうやってみはがオレを楽しんでたのかわかんない。   これ以上ないっていう圧迫感をそこに押し込まれる頃には、オレの視界は水の中みたいになってた。  うつぶせにされて腰だけ高くした姿勢で、みはがオレに入ろうとする。 「っく……う……うっく……」  喰いしばった歯の間から、うめき声が漏れた。 「良哉……やめる?」  オレはもうきっと、何が何だかわかんないもので、顔中べとべとになってる。  みはの息も上がってて、すごくエロイ声だって思った。  ちょっと泣きそうで、掠れた声。 「ふざけんな…なんで、ここまで……こんなんしといて……」 「でも、泣いてる。」 「お前の…せいだ、ばか」 「そうだな……ごめん」  ごめんじゃない。  全然違う。  違うんだみは。 「だから、やめんな……責任とれ!」  瞬きで視界をクリアにして、改めて、みはの顔を見た。  なんて顔してんだよ、バカ。  心配と嬉しいと困ったと。  それから、オレが欲しいってものすごくでっかく、顔に書いてあるじゃん。 「良哉、煽るのうますぎ……ちょっとだけ、力抜いて?」 「くぁ……っあ、む、無理……わかんない……」 「良哉?」 「わかんない……どうしたらいいのか、わかん、な……」  枕にぐりぐりと顔を押し付けた。  だってもう、何が何だかわからない。 「大丈夫、手伝うから……声、出したほうがいい。息吐いて…」  みはがオレの腰を片手で支えて、もう片方の手で前をあやす。  いつの間にかふんにゃりしてたそれは、みはの手でまた熱をもつ。 「ああ……ん、や、どっちもは……ああっみは……」 「上手、良哉……いくよ」  ぐい、とみはが身体を進めた。  あつい。  あつい。  あつい。  苦しい。  嬉しい。 「あああっ…みは……みは、や……」 「いや?」 「やじゃない……でも、やだ……あ…やだ、こわ…い……みは、みは」 「大丈夫、俺だから。良哉の中にいるの、俺だよ……」 「あっああ…みはっ……あっ」 「すげ……良哉、気持ちい……」  全然セックスの経験なんてない。  だから。  こんなに気持ちいいのは初めてだ。  苦しいのも。  アツくて、痛くて、怖くて、苦しくて、でもしあわせで。  翻弄された。  今まで考えたこともないくらいに。

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