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風呂から上がって部屋で髪を乾かしているとスマホが鳴った。見ると『“木月孝宏”さんからメールが届いています』の文字。俺はすぐにメール内容を確認した。 『今日はありがとう。日曜はよろしく。無理言ってごめんな。家の地図↓。わからなければ迎えに行くから』 話せただけでも嬉しいのに、家に呼ばれて料理を教えることになって、連絡先まで交換できた。なにこの奇跡みたいな一日、夢じゃないよなとメールの文章を何度も読み返しながら思った。 『焼き鳥奢ってもらったし、俺のほうこそありがと。家は迎えに来てもらわなくても迷わずいけると思う。おやすみ』 ぐるぐる考えても良い返信が思いつかず半ば無理やりおやすみと言って会話を終わらせる形になってしまった。 メールを送信して、もう来ないだろうしさあ寝ようと電気を消すとまたスマホが鳴った。見ると『ん、また行こうな。おやすみ』とあった。次があることとたった四文字の挨拶がこの上なく嬉しかった。 が、嬉しいと思うのと同時にあくまで木月への気持ちは俺の一方通行で、木月が同じ感情を抱いてくれているわけじゃないと感じて少し切なくなった。 ふたりっきりの部屋で料理を教えてと頼むのも、また一緒に焼き鳥食べようと言ってくれるのも、おやすみという言葉も木月にとっては深い意味はなくて、自分の言葉に俺がこんなに振り回されているなんて思いもしないんだろう。

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