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【5】
約束の日曜日、教えてもらった木月の家を訪ねた。
インターホンを押すと少しして木月が出てきた。
ただの白シャツにジーンズという普通の格好なのに初めて見た私服姿にどきっとした。
「おはよう。悪いな、朝早くに。上がって」
「ん。…………お邪魔します」
案内された部屋はダイニングキッチンで、部屋の中央には正方形のテーブルと椅子が三脚置いてあった。
「んじゃ、さっそく準備して始めるか」
俺はそう言って荷物を置かせてもらいさっさとエプロンを着た。
今の俺の態度は当然料理を教えるという目的のことしか考えてない、というふうにきちんと木月の目にうつっているだろうか。
……内心は心臓がいつ口から飛び出してもおかしくないくらいには緊張している。
幸いにも木月はああと言って特に何も気にした様子なくエプロンを着はじめた。
作り始めると、一見何でも器用にこなせそうに見える木月の不器用さが浮き彫りになった。
まず、野菜の皮を包丁で剥こうとしたことだった。
出来んのかなと思って黙って見ていたが利き手である右手で包丁を持ったかと思うと思いっきり左手で持っているじゃがいもへガッと力強く包丁を入れた。
「いやいやいやいや。待て待て待て待て!」
皮どころか身のほうにまで包丁が入ってしまっているし何より危なすぎる。包丁の刃が左手にあたるギリギリのところだった。
「お前包丁で皮剥けんの!?危なっかし過ぎるんだけど!」
「剥けないけど……親は包丁で剥いてるもんでさ」
ピーラーないのかと聞くと、ピーラーというもの自体を木月は知らなかった。しょうがないから家から予備として持ってきたピーラーを渡した。そしてレシピ(家庭科の授業の時に全員に配られたもの)に『ピーラーを買うこと』とメモした。アドバイスがまさか調理器具を揃えることからになるとは思わなかった。
ピーラーを渡しても力加減がわからないようでじゃがいもを剥くだけの間に指を数回切った。
仕方なくコツを説明しながら皮剥きは俺がやることにした。
木月は俺の説明を聞きながらレシピに懸命にメモしていた。
野菜の切り方もあまりわかってなく、レシピに書いてあるカレーを作るために知っておく必要がある切り方を教えた。
野菜ひとつ切るのにも、材料を持つ方の手が丸まってなく指を切りはしないかひやひやした。
危ないと木月に説明した後、レシピに『包丁を持ってないほうの手は丸めて猫の手にする』というアドバイスを付け加えておいた。
何とか下準備を終えるとその後はレシピ通りに野菜と肉を炒め煮てルーを入れ、変にひやひやすることも焦げるような失敗もなくカレーは完成した。
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