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【6】
「うん、味は大丈夫だし、あとは野菜の切り方とか皮の剥き方とかさえちゃんと覚えれば大丈夫だと思う」
カレーを味見しながら俺が言うと木月は「良かった」とほっとした表情を浮かべた。
「……じゃあカレーも作り終わったことだし、俺帰るわ」
エプロンを脱ぎながら言う。カレーを作った後出掛けたり遊びに行こうという予定は立てていなかった。
本音を言えばもっと一緒にいたいけど、いきなり遊びに行こうなんて言っても迷惑だろうし、用が済んだのにいつまで居続けるんだと変に思われても困る。
(色んな意味で)木月の貴重な姿をたくさん見れたしもう充分だよな、と自分に言い聞かせるように考えていると
「えっ、もう?この後何か用事あるのか?」
と木月が驚いたように聞いてきた。
「いや、用事はないけど……」
「じゃあまだ帰らなくても良いじゃん。そうだ、この近くに美味いって評判のアイスクリーム屋があるから一緒に行こう。教えてもらった礼にもならないけど、奢るから」
どう?という予想外の誘いに今度は俺が驚く番だった。
「マジ?奢ってもらえるなんてラッキー」
本当はアイスを奢ってもらえることなんてどうでも良くて、少しでも一緒にいれることだけで嬉しくて、でもそんなことを言ったらこの幸せな状況は一瞬で壊れることを分かっているから、ただ予想外のラッキーに喜んでいる風に装った。
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