2 / 17

第2話

 ふわりと入り込んだ風が頬を撫でて、巻物を広げていた幸永は顔を上げて庭に視線を向けた。視線の先には、流石は帝のまします内裏とでも言おうか、美しく整えられた庭が見える。が、室内にいてもわかるその日差しの強さに小さくため息をついた。  季節は夏真っ盛りとでも言おうか、美しく碁盤の目に揃えられた京の都は湿気を多分に含み、カラッとした暑さとは程遠い。特に激しく動いたわけもないというのにジットリと大粒の汗が額に浮かんでは流れ落ちていく。衣替えをしたとはいえみだりに肌を晒すなど御法度。白の単に紫の袴を履いて胸元で結び、上から灰色に刺繍を施した紗の袿を羽織る。これでも冬に比べれば随分と羽織る枚数も少なく、布地も薄いものになってはいるが暑いものは暑かった。  幸永が男として生きていた時には単姿で冷水を頭から浴びたりなどもしていたものだが、この内裏で、それも東宮妃の立場である今の己にそれは許されそうにない。仕方なく、幸永は藤色が美しい蝙蝠――扇子――を開いて己に風を送り込んだ。  幸永がこの内裏に来て三度目の夏である。

ともだちにシェアしよう!