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第102話
「へぇー。本物の犬か。初めて見た」
嫌悪や差別などない、ただ純粋に珍しがっている声に、青年は恐る恐る顔を上げる。無意識にサクラの頭を撫でた。
「外国の船に紛れ込んだのか、誰かが連れてきて逃げたか捨てたかしたんだろうって。よくわかんねぇけど」
「なるほどねぇ。なら、久保殿が言ってたバケモンってお前らのことか。そら不思議がるはずだな」
徒党を組むわけでもなく、武器を持っているわけでもない。ただただサクラが見慣れぬ生き物だったというだけの話に、紫呉は乾いた笑いを零す。
「んで? お前はここら辺に住んでんのか? そのお師匠とやらと一緒か? もう暗いからな、これも何かの縁だし送っていくぞ」
普段雪也を見ている紫呉にすれば、彼もまた子供だ。サクラを連れていることでバケモンなどと言われているなら、尚更危ないだろうと何気なく言った紫呉であったが、その言葉を聞いた瞬間に、青年はギュッとサクラを抱きしめると俯いてしまう。
「ここら辺だけど、でも、家は無いんだ。師匠も、少し前に死んじゃったし」
いつもは民家の軒下にこっそりと身を寄せて眠り、そして朝日が昇る少し前に町をうろついて廃棄されたものを漁り、食べられるものを探すのだと言う。だが化け物だと恐れられているため上手くいくことはそう無く、生傷も絶えない。それでも彼にはサクラを手放すという選択枝はなかった。
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