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第104話
「……お前は、サクラと一緒にいたいんだな?」
突然問いかける紫呉に青年は首を傾げるが、紫呉があまりに真剣な表情をしているものだから、青年も真剣に頷いた。
「絶対に、俺はサクラと一緒だ」
その応えに、紫呉はひとつ頷く。
「一緒に来い。サクラと一緒に、俺の住む所へ。どっちみちこのままなら、お前もサクラも十分には暮らせねぇ。サクラだって腹いっぱい食いたいだろうし、雨風はしのぎたいだろう。なら、一緒に行かねぇか? 俺の主に話してくる。大丈夫、あいつは変わりもんだから、きっと受け入れてくれるさ」
一緒に行こうと言われ、青年はあまりのことにキョトンとしてしまう。サクラをバケモンだと言わない人間など珍しいと思っていたのに、サクラを連れて自分のところに来いなどと。彼は自分の主を変わりもんだと言ったが、青年からしたら紫呉こそが変わりもんだ。
(でも……)
でも、紫呉の言葉に否定を返すことが出来ないというのもまた、真実だった。紫呉は何も間違ったことなど言っていない。青年がどれだけ頑張ろうと、どれだけサクラを大切に思おうと、青年ではサクラにお腹いっぱいになるほどのものはあげられないし、雨風を己の身体で防いでやることしかできない。サクラもきっと心細いだろう。
青年にとって急に現れた紫呉を完全に信じることは難しい。もしかしたら彼が嘘をついているかもしれないし、彼について行ったが最後サクラと引き離されるか、殺されてしまうかもしれない。あるいは人買いに売られてしまうか。
だが、紫呉と共に行かなくとも、待つのは地獄。どちらも地獄なら――。
「……サクラと一緒なら、あんたに付いてく」
そう答える。そんな青年に紫呉はニカッと笑った。そしてこちらだと踵を返す。数歩歩いて、そういえばと振り返った。
「サクラはわかったけど、お前は? お前の名前は、何って言うんだ?」
その問いかけに、そういえば名乗っていなかったと思い出す。サクラをしっかりと抱いて、青年は答えた。
「由弦」
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